時代と共に変化してきた録音環境
今やパソコンで作業するのは当たり前に

 音楽の録音環境は最初期のレコードの時代から今に至るまで大幅に変化している。それこそ昔は録音一発、ミキシング(音量のバランス調整)も録音と同時に行われていて、その現場で行われたことのすべてがレコードの溝に刻まれていったものであった。

 録り直しは演者とミキシングエンジニア全員で「曲の最初からやり直す」を意味していたから、間違えた誰かが「ごめんなさい」と詫び、周りが全員ため息を飲み込んで付き合う……ミスにはそういう緊張感があった。

 そこからテクノロジーが進化してやがて録り直しがトラックごと(ギターだけ、など。ただし当時はそれが結構難しい技術で大変だったらしい)で可能になったり、ミキシングが録音後の作業になったりして、それぞれが段階的に進化していって、DTM(デスクトップ・ミュージック:パソコン内のアプリを使って録音作業をする)環境になって現在に至る。

 DTMになったらもう録り直しも修正もお手軽にやりたい放題で、今やライブ音源にだって当たり前に修正が入る時代である。

「Aメロの出だしから2音目を外してしまったのでそこだけ録り直しをさせてください」「オッケーじゃあ2小節前から再生するのでそこの前後歌っていてください」などが簡単にできるし(テイク1とテイク2の異なる空気感を違和感なくつなげる技術は必要とされるためあまり無茶な編集は難しいものの)、ミックス作業も無限にああでもないこうでもないとやりながら、仕上げることができるようになった。

 使用料1日何十万円とかかるプロのスタジオに近い環境を、自宅のデスクトップに再現することすら可能になったのである。

 こうした技術は音楽シーンとともに歩んできた。全員一発録りからマルチトラックの誕生、やがてデジタル技術が生まれれば音楽にもデジタルが導入され、現代のDTMで修正し放題環境……という具合の進歩は、具体的には「古い録音環境を感じさせる50~60年代、デジタルのにおいが混ざり始める70年代、デジタル全開臭さが今は逆に古く感じる80年代、90~2000年代はデジタル全盛…」というふうに、技術の発展にきれいに対応している。

 だからリスナーの耳もその時代ごとの音楽に慣れていて、それがマジョリティとなって良しとされている。つまり時代によって良しとされる音楽的な価値観は異なっているのである。