税務署が怒ったら終わり…調査官が“本気になる”になる瞬間とは?
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを著書『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋し、お届けします。

税務署が怒ったら終わり…調査官が“本気になる”になる瞬間とは?Photo: Adobe Stock

税務署が怒ったら終わり…調査官が“本気になる”になる瞬間とは?

 本日は「相続と税務署」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。

 税務調査は、始まる前より「当日どう振る舞うか」で結果が変わる場面があります。準備不足で不利になるのはもちろんですが、それ以上に、当日の態度や対応の仕方ひとつで、調査官の見方や掘り方が深くなったり、逆にスムーズに終わったりすることがあるからです。ここでは、実際に「お尋ね」や通知が来て、調査官が自宅に来る段階になったときに、最低限押さえておきたい注意点をまとめます。

調査官が”本気になる”瞬間とは?

 まず大前提として、意見聴取という手続きは税理士が付いている場合に行われるものなので、税理士がいるなら基本的に任せる、という姿勢で問題ありません。悩ましいのは税理士を付けずに自分で申告していて、調査の連絡が来たケースですが、この場合にやってはいけないのが「戦うこと」です。強く反発したり、刺々しい態度を取ったりすると、「何か隠している」と受け取られやすくなります。調査官も人なので、嫌な対応をされれば「懲らしめてやろう」という気持ちが働き、結果として調査の熱量が上がってしまう。税務署と正面衝突するのは、基本的に得策ではありません。

「穏やかに、しかし必要以上に認めない」

 ただし、ここで勘違いしやすいのが「じゃあ言いなりになればいいのか」という点です。それも危険です。調査官は取れるところから取りたい意識が強い局面があります。だから、こちらが十分に整理できていないまま「分かりました、そうなんですね」と飲み込んでしまうと、本来払わなくていい部分まで払う方向に話が寄っていく可能性がある。結局のところ、当日の最適解は「穏やかに、しかし必要以上に認めない」です。丁寧に対応しつつ、判断が難しい論点はその場で即答せず、「確認します」「資料を整理して回答します」と一度持ち帰る。このワンクッションが、当日一番効きます。

名義預金を指摘されたら?

 具体的に揉めやすい論点の代表が名義預金です。調査官が「親が通帳や印鑑を管理していた=子どもは使えなかった=名義預金だ」と強く言ってくることがあります。でも実務上は、本人が贈与を受けた認識を持っていて、使おうと思えば使える状況にあり、ただ事情があって一時的に管理を親に任せていた、というケースもあり得ます。この場合は「名義預金ではない」という主張の余地があります。

 ここで重要なのは、事実を曲げて言い返すことではなく、なぜ親が管理していたのか、その合理的理由を説明できるかどうかです。たとえば「今は使わないので管理をお願いしていた」「必要があれば本人の意思で動かせた」といった事情を支えるやり取りの記録があれば、補強材料になります。LINEなどのコミュニケーションも状況次第では証拠として意味を持ち得る、という感覚です。

7月の調査は厳しい。なぜ?

 もうひとつ、当日の空気を左右するのが「調査の本気度」です。経験則として、7月に入ってくる調査は厳しいと言われることがあります。税務署では7月に配置替えがあり、そこで新しい体制で「今年度の調査を頑張る」という流れになりやすい。だから7月中旬くらいに調査の連絡が来たら、ある程度“本命案件”として見られている可能性を想定し、覚悟を決めて準備する、というのが現場の感覚です。

 加えて、事前に「誰が来るか」が分かる場合は、その情報も軽視しないほうがいいです。役職が上の人が来るときは、組織として力を入れているサインになり得ます。一方で、役職が付いていない人が来るからといって油断もできません。定年後に再任用された大ベテランが、新人と一緒に来るケースもあり、見た目以上に手強いことがあるからです。

 まとめると、税務調査当日に効く注意点は三つです。第一に、荒立てない。戦うほど相手のやる気を上げてしまう。第二に、言いなりにもならない。その場で即答せず、論点は持ち帰って整理する。第三に、争点になりやすい部分は「合理的な理由」と「それを支える材料」を用意する。これだけで、調査当日の展開はかなり変わります。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)