馬の調子はいいのだが、体重がいっこうに減らず、天皇賞の1週前の追い切り後の計量では毎日王冠よりも増えていた。

 そのために、10月25日の追い切りは美浦トレセンに出向いておこなっている。有馬記念のときに美浦と中山を往復してスクーリングと追い切りをしたが、今回は追い切りのために府中と美浦を往復するという異例のスケジュールである。これがいくらか功を奏したのか、天皇賞当日の体重は毎日王冠から2キロ減って496キロだった。

 二番人気は武豊が騎乗するスーパークリークで4.5倍。長い距離では実績があるが、2000メートルのスピード競馬になったときはどうか、という一抹の不安材料もあり、微妙なオッズになっている。

 三番人気はメジロアルダンで5.5倍。毎日王冠では前の2頭にすこし離されたが、レース後に岡部幸雄が語っていたように、毎日王冠の経験が生かされれば、さらに上昇する可能性が高い。実績よりも期待への数字だろうか。

のちの三強が揃い踏みし
拮抗したレースが予想された

 問題は四番人気のイナリワンだった。単勝6.2倍。毎日王冠のレース内容を思えば、もっと人気が高くていい馬なのだが、体調面で問題をかかえていた。

 オグリキャップとおなじくずっと東京競馬場に滞在していたのだが、繊細な面があるイナリワンはレースの前になると飼い葉を食べなくなる馬だった。

『サラブレ』(編集部注/株式会社KADOKAWA傘下のエンターブレインブランドが発行していた月刊の競馬雑誌)の取材で会った担当廐務員の五関保利も、いちばん苦労させられたのは天皇賞とジャパンカップのときだったと語っている。

「いま思えば、府中に入廐させたのが悪かったんですかね。まわりに馬がいなくて、イナリワンも落ち着きがなくて、飼い葉も普段の半分ちょっとしか食べなくなってしまいました」

 天皇賞時の馬体重は444キロ。小さな体で、食も細いイナリワン。五関の話をきいたとき、わたしは有馬記念前のタマモクロスを思いだした。

 のちにオグリキャップ、スーパークリーク、イナリワンが「三強」と言われるようになるが、このときは4頭に人気が偏っていて、スポーツ紙には「四強」ということばが並んでいた。単勝オッズもそれを物語っている。