五番人気のミスターシクレノンはイナリワンから大きく離れて21.8倍。

 宝塚記念7着以来のヤエノムテキは6番人気で22.8倍。おなじ宝塚記念でイナリワンに首差まで迫ったフレッシュボイスに至っては55.4倍の12番人気だった。

 毎日王冠のレースぶりが光ったウインドミルは8番人気で40.5倍。父のプレストウコウが好きだったわたしは、オグリキャップの相手の一頭としてこの馬を買っていたと思う。1978年の秋、プレストウコウは毎日王冠に勝ち、天皇賞は暴走気味に逃げてトウメイの息子テンメイの2着に粘っている。

スローな展開を予測し
先行逃げ切りを狙った武豊

 レースは思わぬ展開となった。いつものようにレジェンドテイオーが素早く先頭に立って離していく。そして二番手には白い芦毛のウインドミル。ここまではだれもが予想できたことだが、スーパークリークが三番手にポジションをとったのだ。

 その姿がターフビジョンに映ると、大きな歓声が沸いた。多くの人は前年のタマモクロスを思いだしただろう(編集部注/1988年秋の天皇賞では、先行するレジェンドテイオーをタマモクロスが二番手で追いかけた。ラストの直線で抜け出したタマモクロスは、追いすがるオグリキャップを振り切って、勝利を挙げた)。

「枠順が決まったときから、思いきって先行しようと思っていました」

 レース後、武豊は語っている。武はよく「天才」と言われるが、実際は、入念にシミュレーションをしてレースに臨む騎手である。相手の馬のデータや毛色、勝負服、ジョッキーの癖などをすべて頭に入れ、最悪の状況となったケースも含めて、様々なパターンを考えるそうだ。ディープインパクトに乗るときもそうだったという。

 そして、この天皇賞は、レジェンドテイオーが離して逃げ、有力馬が牽制し合うことで、おそらくスローに近い展開になると読んで先行策にでたのだ。まだ20歳。それでこの冷静さである。

 向こう正面では武が予想したように落ち着いた流れになった。三番手を進むスーパークリークを見るようにメジロアルダンがつけ、オグリキャップは中団、イナリワンは後方からレースを進めている。

 大きな動きもないまま4コーナーをまわって直線に向く。レジェンドテイオーのスピードが鈍り、その外からスーパークリークが先頭にでる勢いで並びかける。しかし、武はまだゴーサインをださない。