今年の巨人の新監督は、奇しくも掛布の高校時代のチームメイトの息子で、子どもの頃から掛布に憧れていた阪神ファンの阿部慎之助である。2023年のシーズン、巨人は阪神に6勝18敗1分けと大きく負け越したが、甲子園で巨人が勝つにはどうすればいいのか。掛布氏がライバルである巨人軍へエールを送る。本稿は、掛布雅之『虎と巨人』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。

子どもの頃から知る
阿部慎之助が巨人の監督に

松井秀喜の構えを見る長嶋茂雄監督Photo:SANKEI

 巨人は2024年のシーズンから阿部慎之助監督のもとで戦います。父親の東司さんとは、習志野高の野球部の同級生です。慎之助のことは、子どもの頃から知っており、私に憧れて小さい頃から阪神ファンだったといいます。父親から「掛布のようになれ」と右打ちから左打ちに転向した話も聞きました。巨人に入団以降も、グラウンド内外で交流があり、親戚の息子のような感じで接してきました。

 どんな監督になるのかは未知数ですが、阪神にとっては強力なライバルとなるはずです。強みは様々な角度から野球を見てきたことです。巨人では捕手出身の監督も初めてですが、四番打者、キャプテン、2軍監督、1軍ヘッド……。三塁のベースコーチにも立ったことがあるのです。巨人の名だたる歴代監督の中でも、これだけの経験を積んだ人はいません。

 攻守で経験則に基づいた的確なアドバイスができるはずです。また、これはプラスであり、足かせになる可能性もあるのが、自身の現役時代の姿を知っている菅野智之、坂本勇人が第一線でチームに残っていることです。気心が知れるメリットはありますが、厳しいことを言えるかどうかです。

「走る野球」ができれば
今の巨人は劇的に変わる

 2023年までの日本一の回数は巨人が22回、阪神が2回と大きな差に表れているように、巨人というのは負けが許されないチームです。歴史上、3年連続Bクラス(4位以下)を経験したことがないのですから。原辰徳監督から2年連続Bクラスでバトンを受け取った阿部監督も、1年目から勝負の年になります。だからこそ、勝つチームを作り直すためには、まず「一塁まで走る姿勢」が必要に思うのです。

 特にホームランの出にくい甲子園球場で戦う場合は走る力は大切です。走るというのは盗塁を指しているのではなく、走者一塁で右前安打は必ず三塁を陥れるとか、貪欲に次の塁を奪っていくということです。巨人は2023年のシーズンで阪神に6勝18敗1分けと大きく負け越しました。甲子園では3勝10敗です。

 これだけ負け越したチームが変わるには、プライドを気にしている場合ではありません。格好つけず、がむしゃらにプレーしないと、チームは生まれ変わりません。その泥臭い野球の一番の肝が「走る」こと。それができるなら巨人の野球は劇的に変わると思います。