聞くと、けがは部活動中に起きたとのことでしたが、まだ初心者の1年生であるにもかかわらず、顧問の教師はふだんから全く現場におらず、彼に大車輪のような難度の高い練習をさせていたと言うのです。しかも、補助者すら入れていなかったと言います。
そして、肝心の鉄棒は古くてツルツルでした。私は、高校の「安全配慮義務違反」である可能性を感じました。高校は、生徒が安全・安心に授業や部活ができるよう配慮する義務があり、義務違反すると生徒に損害賠償の義務を負うのです。
ただ、何分にも事故直後であり、事故の損害賠償請求は、被害者の症状が固定してからしか請求できないのが原則です。症状が固定する前に損害賠償請求して、示談になってから症状が重くなっても、請求できなくなってしまうからです。
そこで、まずは彼の治療を先行してもらうことにしました。治療費の実費は、学校と交渉させて、学校から直払いさせるようにしました。
長期の治療とリハビリの間に
損害賠償請求権の時効が迫る
しかし。治療はずいぶんと長くかかりました。大分県にそうした人が社会に適応できるようになるための施設があり、彼はそこへ移ってリハビリをすることになりました。
私も一度呼ばれて行きましたが、風呂に入ったり、トイレを使ったりという日常動作さえも困難で、彼が少しでも回復しようと血の滲むような努力をしているのを目の当たりにし、何とかして彼の役に立ちたいと思って目頭を熱くしたものです。
治療があまりに長くかかり、その間損害賠償請求ができなかったので、彼のお父さんが事務所に来て、「なんでこんなに前に進まないんだ」と怒鳴られたことも記憶に新しいです。
治療中は賠償請求ができないことを何度も何度も説明しましたが、真の納得は得られませんでした。お父さんの彼への愛情や、将来への不安がそうさせているものと拝察しました。
なお、不法行為の損害賠償請求は、3年で時効消滅してしまいます。そこで、長引く治療中も、時効で消えてしまわないように、相手側から、時効中断事由である「承認」を取りつけるなどして、治療を続けてもらいました。







