そうなると、「古代エジプト人が猫を飼いはじめた」という単純な話ではなくなる。

餌を求めて人間の居住地に
棲みつくようになった

 手がかりをつなぎあわせると、猫の家畜化がどのような経緯をたどってきたかがわかる。

 およそ1万年前の新石器時代、肥沃な三日月地帯の平原で生活していた狩猟採集民たちは、穀物の粒から作物を育てられることに気づいた。そして収穫や穀物の保管方法を学ぶと、狩りや採集のために遠出する必要がなくなり、定住化が進んだ。

 このような初期の農村の周辺をうろついて、様子をうかがう小柄な動物がいた――リビアヤマネコだ。基本的には単独行動で、縄張り内で自力で狩りをするため、繁殖など限られた時期を除き、仲間との接触はできるかぎり避ける傾向にある。

 コミュニケーションは尿のにおいを介して間接的に行われていた。ところが空腹や好奇心から、こうした新たな人間の居住地に近づくようになる。

 肉のかけらを求めて捨てられた骨の山を漁ったり、穀物貯蔵庫に棲みつくようになった大量のネズミを獲ったりするのが目的だったにちがいない。次第に、余りあるほどの餌を目当てに多くのヤマネコたちが集まるようになったのだろう。

 こうして、人間とヤマネコの暫定的な共生関係が始まった。

 どの動物にも当てはまることだが、なかには大胆にも、この新たな餌場に出入りするためには仲間や人間に近づくことを厭わないヤマネコもいたはずだ。

 そうした人馴れしたヤマネコが、警戒心の強い仲間を出し抜いてごちそうにありつき、人間の社会で子を産んでもおかしくはない。そして、従順な性質は子へと受け継がれる。このように、人になつきやすい個体が自然に集まったことが家畜化のプロセスの始まりだと考えられる。

害獣駆除から崇拝の対象まで
猫を飼育する目的はさまざま

 こうしたヤマネコと人間の関係は、肥沃な三日月地帯のあちこちの集落で築かれた。考古学および遺伝子の研究によると、4000~6000年前に新石器時代の人々が他の地域に移住した際に、ヤマネコたちも一緒に移動してヨーロッパ大陸の各地に到達した可能性が高い。

 ただし、人間がどの時点でヤマネコを住居に招き入れるようになったのかは明らかになっておらず、この段階ではまだそうした関係には至っていないかもしれない。