写真:ユニ・チャーム
この10年で、ペット用紙おむつ市場は5倍に拡大した。その市場で9割という圧倒的なシェアを握るのがユニ・チャームだ。躍進の起点は、老犬の介護用品だった「おむつ」を、お出かけ時の「マナーウェア」へと呼び替えた発想の転換にある。これにより、若く健康な犬という新たな需要を創出することに成功した。連載『ヒットの裏側』では、このヒットを生んだイメージチェンジの舞台裏と、営業・開発・マーケティングが一丸となった普及作戦の軌跡を追う。(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)
10年で市場は5倍、シェアは9割
「漏れるおむつ」が発想の転換点になった
ペットの“家族化”を背景に、ペット用紙おむつ市場はこの10年ほどで約5倍という拡大を遂げた。この急成長する市場で、9割超のシェアを握るのがユニ・チャームだ(市場調査会社インテージ調べ)。事実上、同社が1社で市場を独占し、また市場全体の成長をけん引してきた格好である。
だが、その道のりは順風満帆ではなかった。ユニ・チャームがこの市場に参入したのは2001年。当初は、高齢で失禁が見られる犬を対象としたニッチな介護用品として、紙おむつを発売した。
しかし、それは人間の赤ちゃん用おむつの改良品に過ぎず、犬種ごとに異なる多様な体形にはフィットしなかった。関係者からは「2枚に1枚は漏れる」と揶揄(やゆ)されるほどの品質で、市場も未成熟なまま。この状況は2010年頃まで続くことになる。
中でも深刻だったのが、男の子用(オス用)のおむつだ。生殖器がへその辺りにあるため、装着位置が少しずれただけですぐに漏れてしまう。
この難題に、当時唯一の開発専任者として取り組んだのが、08年入社の小松原大介(現Global開発本部・第2商品開発部マネージャー)である。
小松原は、ある飼い主がペットシートをおなかに巻き、洗濯ばさみで留めて使っている“自作おむつ”の事例に着目。これをヒントに開発を進め11年、腹巻タイプの「オス用おしっこオムツ」を発売した。
この「オス用おしっこオムツ」の発売が、ユニ・チャームに飼い主の潜在ニーズを気付かせる転機となった。
もともと「老犬の介護用品」という位置付けだった製品が、実際には若い犬にも使われている実態が判明したのだ。特に男の子は、マーキング(におい付け)の習性で家の中でもおしっこをしてしまい、それに悩む飼い主が“対策”として活用していた。
さらに決定的だったのは、当時はまだ少数ながら、「お出かけ時に使いたい」という声が出始めたことだ。これは、介護とはまったく異なる新しい需要の兆しだった。
現場から上がったこれらの情報を受け、同社は14年、「おむつ」という介護のイメージを極力抑え、お出かけ時に着る「洋服」というコンセプトの新概念「マナーウェア」を打ち出す。
だが、この斬新なアイデアに、社内からは反対意見も上がった。そんな逆風をものともせず、発想の転換を強力に推し進めたのが、マーケティング担当の寳嶋隆志(現グローバルペットケアマーケティング本部ジャパンブランドマネジメント部シニアブランドマネージャー)だった。
ヒットにつながるイメージチェンジを巡り、ユニ・チャーム社内でどのような攻防があったのか。その内幕を見ていこう。







