世間の批判を押し切り
逆指名制度を成立させる

 こうした状況を快く思わなかったのか、渡辺はドラフト制度について次のように語っている。

「人為的に競争を否定して、それで弱いものを強く、強いものを弱くしてどっちが勝つかわからなくするというのがフェアだという思想は、まったく間違っているね(注4)」

「僕はもともとドラフト制度には反対でした。たとえば、新聞社でも記者になりたい人は、各社それぞれの試験を受けて入社しますよね。新聞協会で試験をやって合格した者が、読売、朝日、毎日、産経、日経や地方紙などに本人の志望とは無関係に配属されることはありません。社風も社論も給与も違うんですから当然のことです。

 電力会社に入りたいからといって、東京電力、関西電力、北海道電力、九州電力……どこでもいいということになりますか。勤務地も、大きく違うんですから。護送船団方式はけしからんと、政治家やマスコミがこぞって批判した銀行でも、業界で試験をして、クジで入社する銀行が決まるなんてことはありませんよ。

 よく、『プロスポーツは別だ。プロ野球機構という会社に入社するのであって、どのチームに入るかは、配属部署を会社が決めるのと同じだ』という暴論が聞かれるが、とんでもない。相撲でも、入りたい部屋を選べます。ボクシング、サッカーだってそうでしょ。プロ野球には株式会社が一二あるんです。

 だから、ドラフト制度くらい、この市場経済社会の中で、自由競争を否定する完全な護送船団方式によるシステムはないですよ。球団が企業努力をサボタージュするための談合の論理をごり押しし、選手の人権をまったく無視していいんでしょうか。独占禁止法に違反する完全なカルテルだし、職業選択の自由に反する憲法違反ですよ(注5)」

 ドラフト制度についてこのような問題意識を持つ渡辺は、社長就任後に逆指名制度導入を推進する。導入には他球団から懸念が示されたものの、渡辺は最悪の場合は新リーグ設立も辞さないと強い揺さぶりをかけた。

(注4)前掲『提言報道』六頁。

(注5)渡辺、御厨、伊藤、飯尾前掲『渡辺恒雄回顧録』五三〇頁。