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人生にとって大きな転機となる「転勤」命令を断ることはできるのでしょうか?2つの事例から転勤のルールを解説します。【前編】(特定社会保険労務士、大槻経営労務管理事務所 三戸礼子)
転勤の内示が出た!拒否できる?
「転勤は会社員の宿命」――そんな言葉が、つい最近まで当たり前のように使われていました。内示が出れば従うのが当然。断る選択肢なんて、ありえないとされてきました。
けれど近年、その前提は大きく変わりつつあります。共働き世帯の増加、親の高齢化や介護問題、高額な住宅ローン、子どもの教育環境などを理由に、転勤の壁は明らかに高くなっています。リモートワークが普及し「どの場所でも働けます」という人が出現した一方で、「どこへでも行けるわけではない」社員も増えているのです。
転勤は、人事異動という枠にとどまらない、人生そのものを揺るがす出来事です。だからこそ、感情が先に立ち、トラブルになりやすい。「転勤NGって言ったら評価が下がりますか」「断ったら辞めるしかないですか」といった不安の声もよく聞かれます。
そこで、実際によくある2つのケースを通じて、「断れる転勤」と「断るのが難しい転勤」の〈分かれ目〉を読み解いていきます。
転勤ケース1「やっと落ち着けると思ったのに」
Aさんは30代後半のメディア職で、東京出身です。同い年の妻は大阪出身で、結婚後は名古屋、福岡、仙台と、Aさんの転勤に伴って主要都市を転々としてきました。
ようやくAさんが東京本社に戻れると決まった夜、2人は近所の居酒屋で乾杯しました。「これで、もう転勤はないよね」と妻。「さすがに東京本社だし。やっと腰を落ち着けられるよ」とAさん。
その後、2人は東京のいわゆる山の手エリアに念願の戸建てを購入します。「ここで歳を取っていくんだね。やっと“帰る家”ができた気がする」――妻は照れたように笑ってこう言ったそうです。
ところが入居からわずか半年後。Aさんは帰宅すると無言で封筒をテーブルに置き、しばらく目を伏せたまま立ち尽くした後、こう言い放ちます。
「……地方局への異動、内示が出た」「来月からだ」
「え? どういうこと?」妻は一瞬言葉を失い、次の瞬間、抑えていた感情があふれました。「ちょっと待って。家、買ったばかりじゃない!」
「分かってるよ。でも、断れない」Aさんは視線を落としたまま、力なく肩をすくめます。
重たい沈黙が部屋を包みました。やがて妻は小さく息を吐き、どこか諦めたように笑いました。
「家を買うと転勤になるっていうジンクス、本当だったんだね。自分たちには関係ないと思っていたのに……」
このケース、Aさんは転勤を拒否できるでしょうか。







