ひょんなきっかけで始まるラブストーリー

 まず、原作は2021年に刊行され、日本では2024年に翻訳版が出版されたNY発のベストセラーである。作者は1991年生まれのエミリー・ヘンリーで、20代でデビューした。特に2020年以降にベストセラーを連発している。NYで活躍する売れっ子の女性作家であり、原作者として映画のキャストたちと一緒にフォトセッションに収まる様子を見ると、多くの若者が憧れる成功したセレブと言える。

『あなたと私の夏の旅』は、大学時代に出会った男女の物語である。同じ場所にとどまることができない自由奔放なポピーと、堅実で優しい性格のアレックスは、性格が正反対で、初対面でのお互いの印象は最悪である。

 しかし長距離移動の中での予期せぬハプニングを経て通じ合うところがあり、お互いに「案外いいヤツだな」という感情が芽生えていく。ラブコメとして、よくある展開ではある。ただ、アレックスには長年付き合っている恋人がいるし、ポピーもアレックスを自分のタイプだとは思っていない。

 石橋を叩いて渡るような性格のアレックスは、ポピーと一緒の旅では、開放的な自分を発見できる。それはときとしてハラハラするのだが、彼にとっては最高に楽しい時間である。

 しかし大学を卒業すれば二人は異なる進路に進み、同じ場所に居続けるのを嫌うポピーはどこに暮らすことになるのかもわからない。そこで二人は親友として、夏の1週間だけは一緒に旅をすることを決めるのである。20代の若者らしい、キラキラした約束である。

 ストーリーは二人が初めて会ってから9年後の現在から始まり、毎年旅をしていた頃の思い出が徐々に挿入される。20代の約10年間は、「自分が何をしたいのか」に悩む時期である。自分が選ぼうとしているキャリアは本当に自分のやりたいことなのか、その道を選ぶことを家族や恋人は応援してくれるのか……。

 多かれ少なかれ誰しも葛藤があり、そこに「恋愛」あるいは「パートナー」という要素が複雑に絡まってくることがある。 

 長年付き合った恋人との結婚を選択すれば、自動的に地元で就職することになる。果たしてそれで良いのかどうか――。例えばそんな葛藤である。