埋葬された人たちの人口統計から判断する限り、これは考古学でいうところの「大災害時の死亡率プロファイル」である。つまり、街に爆弾が投下されたかのように貧富や階級の区別なしに病気が人を殺している。

 上流階級の人たちが貧しい者たちと一緒に息絶えた。そのなかには少なくとも3人の大主教と、イングランド王エドワード3世の娘ジョアンも含まれている。

 流行の第1波では病気に対する知識がないために、上流階級ならではの有利な条件の多くが効力を発揮しなかった。疫病がなぜ、どのように広がるのかがわからない以上、どれだけ金や影響力に物をいわせても自らを救うことはできなかったのである。

 第2波以降になると上流階級の人たちは田舎の別邸に避難したので、そういう余裕のない市民に比べて被害は格段に少なくなる。でも第1波では惨禍があらゆる社会階級に押しよせて、金持ちなら手に入るはずの医療もいっさい役には立たなかった。

黒死病に感染しないために
出来る対策とは

 ノミに刺されないようにするにはできるだけ皮膚を露出しないことである。長そでのシャツと長ズボンを身につけよう。シャツのすそはズボンのなかにたくしこみ、ズボンのすそも靴下のなかに押しこむ。

 自分の体にノミがついていないかを何度となく確認し、石けんで手を洗い、頻繁に沐浴(もくよく)するといい。沐浴などして「毛穴をひらかせ」たらそこから病気が入りこむと現地の医者は信じている。だからロンドン市民は沐浴がよくないことだと吹きこまれているが、あなたはその逆をいくのである。

 たびたび湯水で体をきれいにして、周囲の人にもそうするように勧めよう。臭いなあ、と聞こえよがしに文句をいってみるのもいいかもしれない。

 最初の感染者がロンドンに現れてから1年あまりのちの1349年の晩秋には感染者数が下火になっていた。

 そして冬を迎える頃にはネズミの個体数が激減してノミの数も少なくなり、人口のかなりの部分が免疫を獲得したことも重なって流行は収束した。それまでのわずか18カ月でロンドンの住民は半数近くが死亡した。