効果を上げるには政府介入しかない
人件費や仕入れ価格上昇の“価格転嫁禁止”
繰り返すが、継続的な物価の安定を実現するためには、飲食料品の消費税減税を行うだけでは不十分であることが認識されなければならない。
物価高騰が再現することを防ぎ、消費税減税を恒久的な物価対策として“正当化”しようとすれば、残された手段は、実質的に次の二つしかない。
第一は、原材料費や人件費が上昇して仕入れ価格が高騰しても、消費税減税の対象になったものについては、売上価格の上昇を認めないことだ。つまり、これらに対しては一種の物価統制を行い、転嫁を認めないことにするのだ。
もちろん、この政策の実行は難しいだろう。これは明らかな価格介入であり、日本でそもそも実行できるかどうかが疑問だからだ。しかも、飲食料品の販売業者には中小企業が多く、コストの上昇を売上価格に転嫁できなければ、経営が行き詰まってしまうだろう。
消費減税分だけ春闘の賃上げ率を
低くすることを政府が指導・要請!?
物価高騰が再現することを防ぐ第二の方法は、賃上げ過程に対して政府が干渉することだ。具体的には、春闘における賃上げ率について、消費税減税の影響を考慮して、その分だけ賃上げ率を低くするように指導・要請することが考えられる。
「消費税減税によって生活費が安くなったのだから、その分だけ賃上げを抑制してもよいだろう」という考えだ。
このようにすれば、賃上げ率が低くなり、したがって物価が全体として安定化することが考えられる。
もちろんこのような政策に対しては、強い反対があるだろう。
まず、日本経済はやっと「賃金と物価の好循環」が実現する状態になったのに、その好循環過程を壊してしまうという反対論があるだろう。
しかし、現在の日本で起きているのは、「好循環」とは言えないものだ。2022年から23年にかけては、世界的な資源価格の上昇と円安によって引き起こされた輸入インフレだった。だがその後は、生産性上昇を伴わない賃金上昇が売上価格に転嫁されることによって物価上昇が続いている。
つまり、春闘での賃上げがきっかけとなって、賃上げが経済全体に広がり、企業はそれを売上価格に転嫁し、このため、企業の売上価格が上昇して物価が上昇するというのが、23年頃以降の日本の物価高騰の基本的なメカニズムだ。これは、「賃金と物価の悪循環」と評価せざるをえないものだ。
上記の二つの政策は、この過程を逆回転させようというものだ。
自由主義経済の原則を損なうことに
真に実効性のある物価高対策を
だが、賃金や物価の上昇過程に対して政府がこのように介入することが、自由主義経済の原則から見て許容されるかどうかは、極めて疑問だ。
しかし、繰り返し述べたように、消費税減税によって物価高騰に対処しようという発想自体が間違っているのだ。だから、せっかく投入される貴重な財源を無駄にしないためには、こうした方法に頼ることがやむを得ないのだ。
言い換えれば、消費税減税は、物価対策として技術的な観点からして誤っているだけでなく、その誤りを糊塗するために、自由主義経済の基本原理を傷つけることになる政策なのだ。
こうした政策に追い込まれる事態を避けるには、まずは、真剣に実効性のある物価対策は何かを考え、実行するしかない。
なお、消費税率の変更を、税制調査会ではなく、新設する「国民会議」で決めることは、形式的には違法ではない。しかしそれは、税制を支えてきた制度を空洞化させ、責任の所在を曖昧にするという意味で、大きな問題を含むものだ。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)







