世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。

アクセスは最悪‥‥。それでも行きたい強烈な個性を持つ紀伊半島の美食店Photo: Adobe Stock

伊勢神宮と熊野大社をめぐる、巡礼と美食の旅

 人口18万人程度なのに、世界一の美食都市として名をはせるスペイン・サンセバスチャン。
 日本各地の美食都市が「日本版・サンセバスチャン」を目指し、切磋琢磨しています。

 伊勢神宮がある三重県にも、「日本版・サンセバスチャン」があります。

 本書では、富山の岩瀬地区の紹介のところでも、サンセバスチャンのようだとお伝えしましたが、三重県の多気町は、サンセバスチャン市と「美食を通じた友好の証」を締結しているのです。

 多気町に2021年にオープンした食のリゾート施設「VISON(ヴィソン)」には、運営会社の社長が締結をサポートしたことでサンセバスチャン通りがあり、現地で人気のバル3店舗が出店しています。

 ですから、ここだけでも足を運ぶ価値が充分あるのですが、せっかくなら、ここを出発点にして、和歌山県にある熊野大社を目指してみてはいかがでしょうか。

 熊野大社へ通じる「熊野古道」は世界遺産にも登録されていますが、実は一本の道ではありません。複数のルートが存在し、その中のひとつに「伊勢路」があります。スタート地点は「伊勢神宮」ですが、多気町にある女鬼(めき)峠から山道に入るのです。

 伊勢路は、伊勢信仰と熊野信仰を両方大切にしている人達が歩いてきた道ですが、熊野古道の中ではあまり知られていません。つまり、穴場だということです。ですから、お伊勢参りをした後に「VISON」でサンセバスチャンを体感し、道中を楽しみながら、熊野大社を目指すのはどうでしょうか。整備されていないところも多いですが、それも旅の楽しさのひとつです。

熊野駅近くの名店と、絶景の古民家レストラン

 この「巡礼と美食の旅」で、特におすすめの店を紹介します。

 1軒目は「食堂あお」です。熊野駅の目と鼻の先にある、一見普通の食堂なのですが、ここが実に面白いんです。

 まず、店主が個性的。朝は近海にカヤックで出かけて魚を釣り、夜は川に潜ってウナギを釣ってきて、それを料理で出すのです。どんなにワイルドな男だろうと思いきや、「熊野のキムタク」と称されるほどさわやかな好青年です。

 理は、熊野の食材が中心で、特別なものは使っていません。それにもかかわらず、味わいは「美味しい」の一段上をいきます。素材が本来持っている魅力が、舌を通して全身に駆け巡り、食べるということの幸せを改めて感じられるような感動があります。

 もう1軒は三重県の南西部にある「炭火割烹 稲米舎(とうべや)」です。
 アクセスはきわめて悪く、最寄りのJRの駅から歩いていくことはできません。ただ、築140年を超える古民家で、丘の上に立っており、眺望が素晴らしい。そして、炭台を囲んだ料理の主役は、近隣の海でとれる魚介類や野菜、備長炭。炭のなかでも備長炭はウバメガシという硬くて緻密な木材で作られるため、高温を長時間維持でき、食材をふっくらと美味しく焼き上げられるのです。

※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。