世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。

なぜ「瀬戸内の小島」の寿司屋に世界から富裕層が集まるのか?Photo: Adobe Stock

伝説的な漁師の魚を堪能できる名店へ

 前々回から、少し趣向を変えて、文章を介して「ガストロノミーツーリズム」を体験していただこうと思います。行先は瀬戸内海で、期間は4日間。運転免許がない方や、お酒を飲みたい方でも楽しめるように、移動手段は公共交通機関だけです。

 前回は2日目の旅程を紹介しました。今回は3日目の旅程です。

 瀬戸内美食旅の2日目は、「アマン」グループの創設者が瀬戸内の小島・生口島に作った旅館「Azumi Setoda」に滞在しました。3日目もまだ楽しみたいところですが、先へ進みましょう。

 次の目的地は愛媛県・伯方島(はかたじま)にある「赤吉(あかきち)」という寿司屋です。しまなみ海道を利用してお店までタクシーで行きましょう(約30分)。

「赤吉」が注目を浴びるようになったのは、藤本純一さんという漁師の魚を使っていることが知られるようになったからです。本書でも紹介している「サスエ前田魚店」の話と少し似ていますが、前田さんが魚屋であるのに対し、藤本さんは漁師です。

 藤本さんが締めた魚もまた、非常に美味しいといわれ、彼のお眼鏡にかなった人しか魚を卸してもらえません。中でも赤吉の赤瀬淳治さんのもとには素晴らしい魚が届くのです。

 これは余談になりますが、藤本さんの魚がいかに素晴らしいかがわかるエピソードを紹介します。

 西麻布のフランス料理「蒼(あお)」の峯村康資シェフは、東京という遠方ではありますが、藤本さんから魚を卸してもらえる一人でした。魚が届くと彼はいつも出汁をとり、コンソメを作るのですが、どうしてもそれだけだと自分が望む味にならず、野菜の出汁も加えることが多かったそうです。

 ところが、赤吉を間借りしてレストラン「虹吉」を開いた際、藤本さんの魚でいつもと同じようにコンソメを作ったら、魚の出汁だけで理想の味が完成したのです。藤本さんが獲ったばかりの魚はこんなに新鮮で、味が変わってくるのかと非常に驚いたと語ってくれました。私もその場にいて、彼のコンソメを堪能しました。

 そんな、一流シェフも驚愕するほど、瀬戸内海の美味しい魚を食べられるのが、赤吉です。
 交通の不便な場所にもかかわらず、全国から美食家が殺到するのも納得です。

 たらふく食べた後は、近隣に宿を取るのがいいと思います。島では特に夜間はタクシーも手配できないことが多いので、帰りの足の確認は必ず事前にしておきましょう。

 なお、2025年現在、漁師の藤本さんが、「赤吉」がある伯方島に「オーベルジュ藤本」を建設する計画が進んでいます。湾に面し、前述の「赤吉」と「虹吉」の2つのレストランが入ります。虹吉の1年目のシェフは峯村さんの予定ですが、実力のあるシェフが大勢かかわるそうです。

 2年後ぐらいに完成する予定だと聞いています。話題になること、間違いなしですね。私もワクワクしています。

※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。