──資金さえあれば20年後……。あと20年、健康に暮らしたい。渡辺さんが研究する意識のアップロードには、当面の死を回避したい私の夢が詰まっている。言ってみればタナトフォビアの希望だ。

 これまでにも人類の存続がピンチに陥ったことは何度かある。例えば、感染症。そのたびに、研究によって特効薬が開発されて、危機的状況を脱してきた。歴史はその繰り返しだ。だとすれば、不可避と考えられた死だって、もしかすると半永久的に先延ばしにすることもできるのではないか?そんな夢を現実のものとしたい。

研究資金300億円あれば
人工意識は開発可能

──「では、ストップウォッチのスタートボタンを押すには、具体的にはどうすればいいのでしょう?」

渡辺:やはり一番は、大規模な研究開発のための資金が必要になりますね。意識のアップロードを20年で実現するには、最初の10年で300億円が必要だと考えています。

 その300億円で、まずは人工意識の実証実験を行います。具体的には人工意識を開発し、本当にそれが意識を宿したかを知るためのテストを行う。私の前著『脳の意識 機械の意識』『意識の脳科学「デジタル不老不死」の扉を開く』に詳しく著しましたが、機械の脳半球に見立てた人工意識と、マウスやサル、さらには我々の生体脳半球をつなげることでテストできると考えています。

 ただ、その方法で人工意識の存在を証明できたとしても、それはまだ、視覚的な意識に限った話であり、そこから、ほかのモダリティ(編集部注/AIが受け取るテキスト・画像・音声・動画・センサーデータなどの情報の形式)に広げていったり、機械の脳半球への記憶の転送についても研究開発を進めていかなければなりません。全く違う規模の研究開発が必要になるでしょう。

 ただ、最初の10年で、視覚を用いて人工意識が実証された時点で、神経科学、ひいてはAI研究など、科学そのものが大きく変わると考えています。ここで細かい背景を全て説明するわけにはいかないので、ぜひ、私の前著を読んでほしいですね。