残金を免除するという考えはどうして生まれたのですか、と私は尋ねた。
「反省しているからまけてやろうというのではなく、平田との付き合いを早くやめたかったんです。どこかのタイミングで切りたい。裁判前の私のイメージでは、10年かかって1000万を支払ってもらうつもりだった。つまり2~3年の刑期だと予想していたのですが、9年くらった。そうすると、20年近くも付き合わなきゃならないことになる。それが嫌だったんです。
一方で、ジャーナリストから刑務所での平田の様子を聞いたり、手紙を読んだりしているうちに、約束はちゃんと果たそうとしていることがわかってきた。被害者通知制度を使った通知書を見ていると、とりあえずはまじめな態度で取り組んでいるとわかった。罪に向き合っていると思ったんです。
父の命日も覚えている。父は珈琲が好きだったことも覚えている。彼は償いの意味において刑期の9年で、当初、私が想定していた10年のうちの9年分の支払い回数はこなしたと思ったんです。カネは払ってないけれど。あと1年ということになる。それを弟妹に相談したら、あと1年というのは短いんじゃないかということで、じゃあ、2年にしようかということになり、支払い回数を24回にしたんです」
服役中も賠償金が払えるように
報奨金の額を上げてほしい
平田は2025年の2月に、残りの金額(24万円)をすべて払い終えた。この段階で、假谷はもう会わなくてもいいと思っていたが、平田は、ジャーナリストを介してまた会いたいと言ってきた。これから自分はどうしたらいいのか、と逡巡しているようだった。
假谷は日本で最大のネットワークを持つ犯罪被害当事者や遺族の自助グループの立ち上げメンバーの一人であり、今もその活動を続けている。
「たくさんのいろいろな被害者と会って、刑事罰の服役だけではだめだと思うようになりました。謝罪の意思が形として示せるのであれば、被害者への賠償があるということを刑務所で教え、服役しているときから賠償金を払えるような仕組みをつくらないといけないと思うのです。ですが、報奨金はわずかですから、その額を上げて賠償できるようにする。
加害者のほとんどは刑務所で刑期を終えたらすべて終わり、民事なんて関係ないというふうに思っているわけですよ。それは間違っているということをたたき込む。民事の部分も償わせることを刑務所で教えるべきなんです」
假谷は、平田と関わり続けたくないと何度も私に言うのだった。
『「殺された側」から「殺した側」へ、こころを伝えるということ』(藤井誠二、光文社)
「一通はどんな加害者も情状酌量狙いで書く。しかし、平田は書き続けた。彼が考えていることも伝わってきた。でも、平田を赦すということはありえない。ただ彼との間で約束をした謝罪と償いにいったんケリをつける。赦しもしないのにケリをつけるのは、長く平田に関わっていたくないというのがあります。どうやっても赦せないから、いつまでも引きずっていたくない」
平田はいつもスーツにネクタイ姿で緊張した面持ちで店にあらわれたという。
「平田と最後の支払い日の直前に会ったんです。そのとき、このあと(賠償金を支払い終えたあと)どうしましょうか?支払いを済ませた後はどうしたらいいんでしょう?などと聞いてくるんです。彼からしたらまだ200万円以上を免除してもらったという気持ちなんでしょう。これで終わりにしようと言ったんだからもういい。約束は果たしたんだから何もない、と私は答えました。
もし、このあとどうするか、あなたが尋ねるのであれば、ここまで被害者に償い、私たちに謝罪したことを自信を持って社会に向けて発信してほしい。それは被害者や加害者のためになることだ、と伝えました。他の加害者に影響を及ぼしてほしいと私は言ったんです。彼はうーんと唸ってましたが……」







