「カーンアカデミー」は、世界中で月間600万人の生徒が学ぶ世界最大級の教育プラットフォームだ。最新のWEBテクノロジーを駆使して、国境や経済格差を超えた学びの場を提供するカーン氏の活動に、次々と出資者が手を挙げる。これまで誰も成し得なかった教育界の改革は、なぜ成功しているのか? 創設者のサルマン・カーン氏に、成長の理由と教育への思いを語ってもらった。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
幼い「いとこ」のために作った
遠隔教育ツールが発端
――無料のオンライン学習サイトであるカーンアカデミーには、代数、化学、コンピュータ科学、宇宙学、マクロ経済、歴史など、さまざまな科目のビデオ教材が4200本もアップされて、世界中で600万もの人々がこれを利用して勉強をしています。カーンアカデミーは普通の学校でも利用されていて、先生が生徒の進捗状況をモニターできるようなしくみもありますね。カーンアカデミーは、教育を今までとは違った方法で行うために、どのようにテクノロジーを用いているのでしょうか。
カーン そこは、実は重要なポイントです。カーンアカデミーは、私が幼いいとこのナディアのために始めた遠隔教育が元になったもので、今はビデオ教材で知られています。英語以外の言語に翻訳されたビデオも7000本以上あります。
しかし、2005年にスタートした当初は、ビデオはありませんでした。使っていたのは私が作ったウェブソフトで、設問を出すしくみになっていました。設問が解けないと、それに合った学習内容を表示するというものです。
そして、私の側では、何が解けて何が解けていないのかがデータとして見えるようにしてありました。つまり、私が最初から考えていたのは、設問で生徒の理解度がわかるようなことができないか、ということだったのです。生徒は設問を解きながら学習を進めていき、先生はその進捗を確認する。それが、本来先生のやることですからね。このしくみを使っていた頃の利用者は数百人でした。
――各科目のビデオ教材は、その後追加されたわけですね。
カーン 2006年に、友人がこう言ったんです。「ビデオを作ったらどう? そしたら、設問がどうしても解けない生徒の助けになる」。試してみてもいいなと思い、ビデオを作って、ご存知のようにユーチューブに上げました。
それが2007年にはすごい人気になっていて、私はどんどんビデオを作った。仕事を辞めてNPOのカーンアカデミーを設立した2009年には、毎月10万人が利用していました。現在の利用者は600万人です。
当初使っていたソフトウェアは、利用者が膨れ上がってサポートできなくなり、取り止めていました。しかし、ゲイツ財団とグーグルがやってきて、もし資金があれば何をするかと問われた際に私が伝えたのは、あのソフトウェアを復活させたいということです。
もちろんビデオ教材も作り続けるけれども、カーンアカデミーの夢であり、本当のパワーはソフトウェアにあるのです。現在、ゲイツ財団とグーグルが資金援助をしてくれているのもそこの部分で、設問のソフトウェアは以前よりずっと洗練されたものになっています。