しかし、社員が保釈されている場合や在宅起訴事件においては、物理的には就労することは可能であるはずですので、単に起訴がされたという事実のみをもって起訴休職を発令することはできないと解されています。

 全日本空輸事件・東京地判平成11年2月15日(労判760号46頁)は、起訴休職の有効性につき、「従業員が起訴された事実のみで、形式的に起訴休職の規定の適用が認められるものではなく、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無など諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、被告の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲役処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないことを要するというべきである。」と判示しています。

保釈中の起訴休職が認められるには
2つの要件を満たす必要がある

 このように起訴休職が有効と認められる場合を限定的に解する見解は、現在の通説的な見解であり、この考え方は、その他の裁判例においても多く援用されています。

 上記見解を敷衍(ふえん)すると、保釈がされている場合や在宅事件など勾留されていない場合において起訴休職を発令するに当たっては、(1)対外的信用の失墜や、職場秩序維持の観点から、客観的にみて就労禁止がやむを得ないといえるような事情が必要であり、(2)有罪となった場合において予想される懲戒処分との関係で均衡がとれているといえる必要があるといえます。

 (1)については、例えば、報道等によって社会的耳目を集めている事件、死刑・無期拘禁・長期の拘禁刑等が予想される重大事件、社内での犯行又は業務中の犯行など職務に密接に関係する事件などが当てはまりやすいでしょう。

 (2)については、仮に有罪となっても、懲戒処分としては訓戒や減給等が予想される場合には、長期の無給を前提とする起訴休職はバランスを欠いた措置ということになります。基本的には懲戒解雇・諭旨解雇相当の事案であることが必要でしょう。

 なお、これらの要件は、休職発令時のみならず、休職を継続させるための要件でもあります。発令時においては、上記を満たしていたとしても、途中でそれを欠くような事態が発生した場合には、起訴休職を継続することはできません。

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 上記(1)、(2)の要件を満たしていたとしても、社員(被告人)が自白しており、事実認定に不確定要素がなく、判決を待たなくても既に懲戒処分を決定するに必要な材料が揃っている場合においては、懲戒処分(懲戒解雇・諭旨解雇)をしてしまえばよいわけですから、わざわざ起訴休職を発令する必要性は乏しいでしょう。

 また、上記(1)、(2)の要件の判断は、評価によるところが大きいですので、裁判官の判断が予測しにくい面があります。したがって、上記(1)、(2)の要件が充足されているか判断に迷うような事案においては、起訴休職ではなく、自宅待機命令として賃金を支払うことが無難といえましょう。なお、自宅待機命令については前節において説明しています。

 したがって、保釈中の社員に起訴休職を発令することが相当といえる場合は、上記(1)、(2)の要件を満たすことが明らかであり、かつ、事実認定に不確定要素があるという限定的な場面であるといえるでしょう。