その結果、インドでは近年の主食用穀物の輸入量が0.5%未満になっているのに比べ(中国ではその割合が約3%)、ナイジェリアは主食の15%を海外から輸入している。さらに、かつては主要な食料輸出国であったナイジェリアも、いまでは油糧種子を輸入する必要があるーー1960年代までナイジェリア北部のカノ州では、収穫した落花生を船積みするために1万5000袋ずつピラミッドのように積みあげた壮観な光景が見られたのだが。

 サハラ砂漠以南において食料生産量が少ない理由は、おもに農業の集約度が非常に低く、とりわけ機械化と灌漑(かんがい)化は一部に限られており、施肥量がきわめて少ないことにある。近年の窒素の施肥量は、農地1ヘクタール当たり3キログラムほどしかなく、これに対してヨーロッパでは30キログラム以上、中国では約50キログラムだ。

 同時に、サハラ以南には、アメリカのコーンベルトやアルゼンチンの草原地帯パンパ、あるいはウクライナからロシアにかけての黒土地帯(チェルノーゼム)のような土壌の質をもつ地域がない。これらの肥沃(ひよく)な地域はアフリカと比べて土壌が若く、土壌の層が深く、有機物が豊富に含まれている。いっぽうアフリカの土壌は古く、流出が進んだうえ、もともとあまり肥沃ではない。

 こうした自然の制約が、着実かつ効果的な方法で食料生産を拡大するという目標を追求するうえで、サハラ以南のアフリカを不利な立場に追い込んできた。

世代を問わず起きる
人々の食生活の変化

 残念ながら、いまのところ、急激な変化がすぐに生じる見込みはない。FAOは、サハラ以南のアフリカにおける1人当たりの食料エネルギー供給量が2030年までに2.5%ほどしか改善しないと予測している。乳幼児や児童に対する栄養失調の予防は、将来の経済成長を確実にするためのもっとも費用対効果の高い方策の1つであるため、これは憂慮すべき問題だ。

『世界はいつまで食べていけるのか 人類史から読み解く食料問題』書影世界はいつまで食べていけるのか 人類史から読み解く食料問題』(バーツラフ・シュミル著、栗木さつき訳、NHK出版)

 しかし、食生活の重要な変化は世代を問わず起こっていて、典型的な消費は新たなレベルに達している。富裕国における1950年以降の変化(望ましいものも、あまり望ましくないものもある)には、牛肉消費量の減少と鶏肉消費量の増加(アメリカでは1人当たりに換算すると1960年から2002年にかけて牛肉・豚肉・羊肉は17%減少し、鶏肉は約3.5倍になった!)、牛乳の消費量の減少(アメリカでもヨーロッパの大半でも、ヨーグルトとピザ用チーズの消費量は増えている)、主食第2位の地位にあったマメ科穀物摂取量の大幅な減少、バターから植物油へのシフトなどがある。

 例に漏れず、長期にわたる段階的な変化を確実に予測することはできないが、今後30年で、過去30年と同じように重要な転換が生じないとすれば、そのほうが驚きだ。そして、おそらくは食料の消費にさらに大きな変化が生じるだろうし、そのおかげで21世紀半ばには世界の食料供給が大きく改善されるかもしれない。現代の世界では、新たに登場する革新的な「解決策」に高い期待が寄せられているが、徐々に改善していくことのほうがよほど大きな意味があるのだ。