イオンスタイル幕張新都心では、政府備蓄米を求め多くの買い物客で行列ができたイオンスタイル幕張新都心では、政府備蓄米を求め多くの買い物客で行列ができた(6月2日) Photo:SANKEI

政府が備蓄米を随意契約で放出したことで、ようやく「コメバブル」が弾けそうだ。なぜコメ価格の高騰に歯止めがかからなかったのか。備蓄米放出でどこまで価格は下がるのか。コメバブルの背景と今後の展開、そして備蓄米放出リスクを検証する。(経済ナビゲーター 村田雅志)

随意契約の備蓄米に大行列
政府が踏み切った“価格統制”

 政府による備蓄米の放出先が卸売業者から小売業者に変更されたことを機に、コメ価格の上昇に歯止めがかかっているとの見方が広がっている。

 小泉進次郎農林水産相は5月21日、備蓄米放出において従来の競争入札方式ではなく、随意契約方式を採用する意向を表明し、同26日には随意契約による備蓄米の売り渡し受付が始まった。これにより小売業者は、卸売業者を通すことなく備蓄米を直接購入することが可能となった。

 随意契約によって引き渡された備蓄米は、6月初旬から全国のスーパーやコンビニなどで販売が始まっている。販売価格(5キログラム当たり・税別)は2022年産(古古米)で2000円程度、21年産(古古古米)で1800円程度だ。販売価格が4200~4500円程度の銘柄米に比べて半値以下ということもあって、備蓄米を買い求める人々の行列がテレビで報道されるくらい備蓄米は人気化した。

 本来、政府の備蓄米は「食料の安定供給」を目的として、深刻な不作や災害時などに限って市場に放出するものとされていた。ただ、25年に入ってもコメ価格の上昇が続いたことから、農水省は1月、コメの「流通が滞っている」と判断された場合にも備蓄米を「一時的に」市場に放出できるよう運用を見直した。

 農水省は当時、コメ価格の上昇の背景には流通の滞りがあると指摘していたこともあり、備蓄米の放出は、流通の円滑化を通じてコメ価格の上昇を間接的に抑制する意図があったといえなくもない。それでも政府は、備蓄米放出の目的はあくまでコメ流通の円滑化であって、コメ価格を下げるためではないとの見解を示していた。

 しかし江藤拓前農水相の失言を機に大臣に就任した小泉氏は、「国民に安定した価格で米を供給することが最重要」と言及。政府はその後、備蓄米放出をコメ価格高騰への緊急対策とした。つまり政府は、これまでの姿勢を一転させ、備蓄米放出の目的をコメ価格下落と位置付けたのだ。

 随意契約による政府備蓄米の売り渡しに関する農水省の資料を見ても、政府の姿勢の変化がよく分かる。資料では、備蓄米の売り渡し価格に関連する形で、備蓄米の小売価格が「5キログラム2000円程度となる水準」と明記されており、備蓄米が高値で販売されることのないよう、政府が事実上の“価格統制”をしている。

 たとえ古いコメであっても、備蓄米が卸売業者ではなく小売業者に直接、放出され、政府の指示通りの安い価格で小売現場にて販売されていることで、銘柄米を含めて25年産のコメ小売価格にも下落圧力がかかることになる。