しかし、中高年で初めて精神疾患の症状が現れる人の中には、タウなどの蓄積によって細胞死が顕著に起きて認知症に至る前段階として、神経細胞の機能が低下している人が少なからずいるのかもしれません。
この研究により、中高年発症の気分障害(うつ病や双極症)に認知症と共通する病態が含まれる可能性が示され、今後は病態に基づく客観的診断と根本的な治療の開発が進むことが期待されます。
脳内の蓄積物質を発見し
取り除く技術の実用化が待たれる
加齢によって脳内に蓄積するのは、アミロイドβやタウだけではありません。α-シヌクレインも凝集体を作って脳内に蓄積し、パーキンソン病やレビー小体型認知症の原因となります。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー病と脳血管性認知症と並び患者数の多い、三大認知症の1つです。私たちの研究センターの遠藤浩信主任研究員らは2024年、生きた人の脳内におけるα-シヌクレインを可視化できるPET薬剤の開発に世界で初めて成功しました(注2)。
タウやα-シヌクレインなど脳内に蓄積する物質を捉える技術は、中高年の精神症状や認知症の予防や治療に大きく貢献するはずです。
症状が出る前の人を対象に、タウやα-シヌクレインなどの蓄積をいち早く捉えるには、血液検査など簡易な手法の開発も必要です。すでに、α-シヌクレインの蓄積を血液で検出する技術が開発されています(注3)。
血液検査などで脳内に異常な物質が蓄積している可能性が高いことがわかった人にはPET検査を受けてもらいます。それにより脳のどの領域にどれくらいその物質が蓄積しているかを調べて、将来、どのような疾患を発症する可能性がどれくらい高いのか、リスクを予測することができるようになるでしょう。
発症リスクが高い人には、蓄積した物質を取り除く作用を持つ薬剤を投与して発症を防ぐことができると期待されます。
『「心の不調」の脳科学 脳の中で、何が起きているのか』(加藤忠史編、講談社)
症状が現れた後でも、脳内のどこにどのような物質が蓄積しているのかをPETで可視化することにより、病状を客観的に診断することができます。
また、蓄積した物質を取り除く薬を投与した後、脳内のどこでどれくらいその物質が除去されたのか、治療効果を客観的に評価して、適切な治療を選択していくことができるようになるでしょう。
そのような予防・治療の実現を目指して、私たちはPETを中心とした研究を進めていきます。
(注2)Endo H. et al., Neuron 112(15):2540-2557.e8 (2024)
(注3)Okuzumi A. et al., Nat Med . 31(2):698 (2025)







