私たちは、レム睡眠とアルツハイマー型認知症の関係を探る実験を始めたところです。

 ある遺伝子変異を持つ家系の人たちは、若いころからアミロイドβが蓄積してアルツハイマー型認知症を発症するケースがあります。

 理化学研究所の西道隆臣博士、斉藤貴志博士(現・名古屋市立大学教授)らがその遺伝子変異をマウスに導入したアルツハイマー型認知症のモデルマウスを開発しました。そのモデルマウスを用いた実験を私たちは進めています。

 そのマウスも若いころから脳内でアミロイドβが蓄積して、記憶・学習能力の低下が見られます。睡眠と学習記憶能力の関係を調べると、レム睡眠が短いほど、学習記憶テストの成績が悪いことがわかりました。

 一方、ノンレム睡眠の時間と学習記憶テストの成績には相関がありませんでした。

レム睡眠を増やすことが
認知症の特効薬となるか?

 ヒトを対象にした研究では、パーキンソン病を発症してからの罹患年数が増すにつれて、全体の睡眠時間が減るとともに、特にレム睡眠の時間が大きく減るという報告があります。

 レム睡眠が短いとなぜ発症リスクが高まるのかというメカニズムは明らかになっていませんが、認知症やパーキンソン病とレム睡眠には強い相関がありそうです。

 レム睡眠が短くなることで血流量が増えることによる大脳皮質のリフレッシュ効果も小さくなり、神経細胞の機能低下や細胞死を促進して認知症の発症を助長するのではないかと私たちは考えています。

 認知症の人の脳では、毛細血管の詰まりが多いという報告もあります。レム睡眠での血流量の増加は、詰まりを洗い流して解消する効果もあると考えられます。

 レム睡眠が短くなると、毛細血管が詰まったままになり、神経細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らず認知症を促進する可能性があります。また、毛細血管の維持には血流量の増加による刺激が必要だといわれています。

 ただし、毛細血管の血流量が増えたからといって、α-シヌクレインやアミロイドβなどの異常タンパク質の除去が行われるということはあまりないのではと考えています。脳の血管には、ほとんどの物質を通過させない「血液脳関門」という仕組みがあるからです。

 私たちは今後、アルツハイマー型認知症のモデルマウスなどを用いて、レム睡眠と認知症の因果関係を探る研究をさらに進めていくつもりです。

 認知症の人の介護は、家族や介護士の人たちの大きな負担となります。認知機能が低下すること以上に、夜間に眠れずに動き回り、ときには外出して徘徊するといった行動は睡眠障害が関係しており、施設入所を決める大きな要因になっています。

 レム睡眠や徐波睡眠(編集部注/ノンレム睡眠の中で最も深い眠り)を増やすなど睡眠の質を上げることができれば、認知症の進行や脳機能の低下を防ぐことができるかもしれません。さらに、家族や介護士の人たちの負担を軽減することにも大いに役立つはずです。