それから1年ほど経った頃、彼女の友人から「彼女がベッドの中で冷たくなって発見された」という連絡を受けました。
当時は埋め込み式の血糖測定器やインスリン自動投入機が普及しておらず、もしそれらがあれば彼女が望んだ在宅で闘病生活を支えられたかもしれません。母親を失い、在宅透析も移植も叶わず、仕事も失った彼女の喪失感が疾患を悪化させたのだと思うと、胸が詰まる思いです。
この仕事をしていると、切ない思いをすることが多々あります。彼女との関わりもそのひとつでした。ただ、救いだったのは、在宅透析を熱望した彼女と思いをともにし、長いトンネルの先の光をつかもうと二人三脚で走り抜けられたことです。悲しい結末ではありましたが、医療者としていっときでも彼女の人生を応援できたことを心の慰めにしています。
横隔膜の傷で合併症を
発症した慢性腎臓病患者
ずいぶん前の話になりますが、慢性腎臓病で通院されていた40代の女性患者さんがいらっしゃいました。徐々に病状が悪化し、腹膜透析を始めることになりました。
腹膜透析は、お腹の中にカテーテルを入れて透析液を交換する治療法です。透析液を腹腔内に入れると、血液中の老廃物が透析液のほうへ移動していきます。5、6時間経って透析液に十分な老廃物が移ったところで、新しい透析液に交換します。この作業を患者さん自身が1日に3、4回行います。場所を選ばず、自宅や職場でもできるという大きなメリットがある一方で、透析液の交換やカテーテルを清潔に保つなど、自己管理が求められる治療法でもあります。
彼女もしばらくは順調に続けていましたが、あるとき、横隔膜に傷ができ、「横隔膜交通症」という合併症を発症しました。透析液が腹腔から胸腔に流れ込んで胸水が溜まり、呼吸にも影響が出る状態です。腹膜透析は血液透析に比べて血液を浄化する力が弱く、徐々に老廃物の除去能力が低下していきます。そのため、通常、腹膜透析を始めてから5~10年を目処に血液透析に移行する必要があるとされていますが、彼女の場合は残念ながらかなり早い段階で血液透析に切り替えざるを得ませんでした。
様々な治療に挑戦し
血液透析に戻るやるせなさ
その後、ご主人がドナーになり、腎移植をすることに。しかし、移植から5年後に感染症を発症し、再び血液透析に戻ることになりました。それでも彼女は「移植をしたことに後悔はない」と言います。移植して初めて「からだの中から毒性物質が消え、霧が晴れるような感覚」を味わったというのです。「自由に動けた5年間は幸せでした」という言葉に、私は救われる思いでした。
『からだの声を聴く習慣 腎臓内科医が教える幸せな人生への処方箋』(鈴木孝子、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
腹膜透析、血液透析、腎移植、そして再び血液透析と、彼女はあらゆる腎臓治療を経験しながら、忍耐強く闘病を続けていました。病状が悪化する中で有効な手立てが見つからず、私自身も焦りと無力感にさいなまれる日々でした。
腎移植で手に入れた明るい日々は続かず、再び血液透析に戻ることになった頃、彼女から1通の手紙が届きました。
「あと数カ月で、また血液透析に戻らなければいけません。先生、私の気持ちがわかるでしょうか」
その一文に、彼女の忍耐や苦しみ、やるせない気持ちが凝縮されているようで、言葉が見つかりませんでした。それから幾度読み返したことでしょう。机の上に置かれたその手紙を眺めるたびに胸が詰まりました。それでも、返事を書くことができません。







