これは、たとえ日本が戦略的価値を高めても、トランプ政治の「気まぐれ」に振り回されるリスクが残っていることを示している。
また、高市路線には経済的コストも伴う。対中依存を減らし、防衛協力と経済安全保障を前面に出せば、中国側の経済報復や市場リスクは高まりうる。
防衛費拡大、経済安保投資、景気刺激を同時に進めるなら、財政、市場、世論の3つの制約も厳しくなる。高市外交は、方向としては正しくても、実行面では綱渡りである。
それでも、日本にとっては高市路線のほうが現実的である。理由は単純だ。日本は中国の隣にあるからである。これは理念ではなく地理の問題であり、感情ではなく軍事の問題である。
※ただし、トランプ大統領は日本の真珠湾攻撃を必ずしも否定的に捉えていないという見方がある。2017年12月7日に「真珠湾攻撃は邪悪」と否定的にツイートした一方で、2018年6月に安倍晋三首相(当時)がホワイトハウスに訪問した際に、「日本は、アメリカをたたきのめすこともある強い国じゃないか」と真珠湾攻撃を持ち出して「リメンバー・パールハーバー(真珠湾の雄姿を思い出せ)」と述べたと報じられたことがある。
日本が問うべきは
「トランプが信頼できるか」ではない
外交で最も忌むべきは、相手国の好き嫌いに左右されることだ。
問うべきは「トランプ大統領を信頼できるか」ではない。「全面的には信頼できないアメリカを、どう利用するか」である。ここを取り違えると、「アメリカは信用できない」という感想が、そのまま「では距離を置こう」という危険な結論にすり替わってしまう。
今回の3月19日の日米首脳会談は、そのことをよく示している。
ホルムズ海峡、イラン戦争、米中首脳会談の延期という最悪の条件のなかで、高市首相は会談を破綻させなかった。しかも、ただ無難にやり過ごしただけではない。日本はNATOとは違う、つまり日本は日本としての事情と価値を持つ相手だと、トランプ大統領に言わせたのである。
先ほど触れたカーニー首相のダボス演説は、時代の気分を見事に言語化したものだった。
だが、「空気を読む力」と「実行できる戦略」は別物である。時代精神を読んだのはカーニー首相だったが、国際秩序の断絶にどう対処するかという問いに関して、地政学を本当に理解しているのは高市首相である。今回の日米首脳会談は、その評価が少なくとも一度は実証された場面だったと言ってよい。
高市首相は歴代の中でも外交能力が高い首相であると評していいだろう。日本を世界政治の「ハブ」に飛躍させた安倍晋三元首相にはもちろんまだ及ばないが、その基本姿勢を受け継ぎ、日本を再び世界政治のハブに引き揚げるポテンシャルがあると考える。
実際、イラン外相は3月20日に日本関連船舶のホルムズ海峡通過を認める用意があると表明している。これはイランの日米分断工作であるとともに、今後の停戦交渉の仲介を日本に託す可能性があることを示唆している。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)







