張又侠副主席の失脚が
もたらす深刻な効果

 政治面では、人民解放軍の大規模な粛清が進行中だ。昨秋の中央委員会総会では、軍の指揮権を有する中央軍事委員会の何衛東副主席を始め、高級軍幹部の人事を司る政治工作部の苗華主任など高位の軍人が9人も解任された。その中には、台湾を担当する東部戦区の司令員や、司令員と同格の陸軍政治委員、海軍政治委員らが含まれていた。

 さらに1月には、中央軍事委員会の張又侠副主席と参謀部門トップの劉振立委員が重大な規律違反と法規違反の嫌疑により審査の対象になった。

 一連の粛清の解釈は大きく二つに分かれている。一つは、習近平中央軍事委員会主席と張又侠副主席の間の権力闘争説だ。それによれば、昨秋解任が発表された人々の多くは福建省厦門を本拠とした旧31集団軍の出身であり、同省で長く勤務した習氏の子飼いであって、張氏らにより地位を奪われた。他方、今回の張氏と劉氏の失脚は、習氏の側がそれに反撃した結果だという。

 もう一つは、習氏による軍の引き締め説だ。何衛東や苗華らの主な罪は汚職腐敗と派閥形成であり、習氏は軍内に突出した派閥が出現することを許容できなかった。過去の例では、毛沢東の晩年、軍内で勢力を拡大させた林彪元帥との間で矛盾が生じ、遂には林氏が逃亡を図って墜落死したことがあった。たとえ忠誠心が強くとも、力を強めた部下は独裁者に疎まれる。

 では、張又侠はなぜ失脚したのか。ある台湾の研究者は、張氏らを批判する解放軍報の社説や昨年11月に人民日報に掲載された張氏の論文などを分析し、統合作戦訓練のペースと方法に関する習氏と張氏の不一致を見出した。

 すなわち、習氏は軍に対し、台湾をめぐる戦闘に勝利できる統合作戦能力を2027年までに備えよと指示した。だが張論文には、統合作戦能力は2035年までに顕著に増強されると記されており、2027年には間に合わないことが示唆されていた。この不一致が軍内で広く知られるところとなり、習氏は主席の権威を守るために張氏を解任したという。

 理由は何にせよ、張氏失脚がもたらす効果は深刻だろう。習氏と父親同士が戦友で、最も信頼されていた張氏まで切られたのだから、習政権で地位が安泰な者はいない。全人代の前には、さらに陸軍司令員を含む9人の軍人が代表資格を剥奪(はくだつ)された。

 粛清の結果、習氏の独裁色がさらに強まり、部下たちの萎縮、忖度(そんたく)が悪化することは必定だ。その一つの反映が、前述の王毅外相のミュンヘンでの発言や次第に広がった日本との交流の凍結なのではないか。高市発言に対するボスの怒りを知らされた下々の者が、忠誠心を示そうと強い対応に出ている気配が感じられる。