万全を期しても生じる「想定外」への対処
竪管と住戸内横枝管には、既存の排水管を生かして内面を塗膜する「排水管ライニング」工法を採用。(1)上層拠点階から樹脂を注入 (2)事前に設置した仮設配管経由で排水管に研磨材や樹脂を行き渡らせる (3)1階敷地内に設置した大型吸引機で管内に均等に塗布する
工事にあたっては、事前に懸念事項を想定して準備を整えている。
中でも最重要と捉えていたのが、施工当日、あらかじめ計画していた通りに工事業者が対象住戸へ入室することだった。というのも、更生工事では研磨や塗布作業で管内を強力に吸引する過程があり、その前に作業範囲の住戸内に立ち入ってトイレや浴室の排水口を全てふさぐ必要があるからだ。
1戸でも不在住戸があれば、工事は一時的にストップしてしまう。何としても全住戸の協力を得るため、各戸に対して4~6カ月前に施工日を知らせ、施工日近くには玄関扉にスケジュール表を掲出。施工会社から電話連絡も入れて、周知徹底に努めた。
工事中も日常生活を続ける住民にとって、最大の懸念は排水制限により自宅トイレが一時的に使えなくなることだろう。実際、これについては、本事案が議題に上がった時から心配の声が多かった。
対策として、工事期間中は1階に仮設トイレを3台設置し、シティフロントタワーと同じ街区にあるマンションの理事会に依頼して、隣接建物の共用トイレを借用する許可も得た。外出が難しい住民のためには室内で使える災害用トイレも用意し、希望者に配布した。
さらに、誤排水が発生した場合に備え、事態を把握した時点で同じ竪管を共有する系統住戸に注意喚起する、との対応を決めておいた。
ここまで準備をしていても、工事中は想定外の問題が発生することがあり、時間を置かずに対処しなくてはいけない場面もある。
実は、作業当日に対象範囲で不在住戸が出てしまった。だが、管理会社の協力により当該住戸に連絡を取り、代理人立ち合いの下、無事、作業を進めることができた。
また、一部の住戸で、リフォームにより樹脂製で軟質の可とう配管継ぎ手(※)が採用されていた。このままでは、工事で管内を吸引した際、樹脂製の継ぎ手は吸引力に耐えられず破損する恐れがある。そのため、壁や床を開いて継ぎ手を取り外す作業が追加で必要となった。
そのほか、多くの住戸で確認されたのが、台所シンクにおける排水口パッキンの劣化である。これに関しては、管理組合の負担で全て交換することとした。
シティフロントタワー住宅管理組合山下善照 理事長 Photo by K.H
このような現場対応は多少あったものの漏水などの事故もなく、仮設工事から内装復旧までの全工程が予定通り7カ月で終了したのである。
工事資金については、更生工法の採用により工事費を削減できたことで、住民の追加負担なしに、全額を修繕積立金で支払うことができた。
さらに今後を見据えて、25年6月の総会では修繕積立金の改定も決議した。資産価値維持のためには、値上げはやむなしとの判断である。今後の大規模修繕を見据え、従来の月額平米単価259円から3年かけて段階的に395円まで引き上げ、積立総額の増額を図っている。
時間を経るごとに建物は老朽化する。しかし、問題点をいち早く認識して、解決策の検討および実施を住民主体で迅速に行えば、居住性能を維持することは可能なのだ。
「ヨーロッパに価値ある古い建物が多く存在するように、たとえ竣工から年数を経ても、住民自らがビジョンを立てて取り組むことで、マンションの価値は向上させられると信じています」(山下氏)
※樹脂やゴムなどの軟質素材で作られた、配管の伸縮、偏芯、振動を吸収する継ぎ手







