【ステップ3】
OpenAIが投資家に証明しなければならないこと

 この問題にはもうひとつ、年内に進む可能性があるOpenAIの株式上場問題も関係してきます。ライバルのアンソロピックとほぼ同時期に、OpenAIも株式公開の準備を進めています。いよいよユニコーン、ないしはデカコーンとよばれた巨大な未上場企業にわたしたち一般投資家も投資できるようにステージが変わります。

 問題はその際に、OpenAI経営陣が投資家に何を証明するのかという話です。これまでのように十数兆円の資金を調達して夢のような形で生成AIをつぎつぎと進化させていくことも重要なのですが、投資家はその先の利益も同時に求めます。

 OpenAIやアンソロピックと競合するGAFAMの場合は、巨額の研究開発投資をしても投資家がそれを認めてきました。理由はほかに広告やクラウドといった巨大な収益源を持っていたからです。

 一方でOpenAIとアンソロピックはAI一本足打法の経営をしています。この2社は上場した場合、AIの分野で高い利益を上げられることを株主に説明しなければなりません。

 わたしたち個人から月額20ドルでAIの利用料を課金するのもひとつの手段ですが、より大きいのは法人から年間数百億円の売り上げを狙える分野です。フィジカルAIを開発するさまざまな企業、たとえばトヨタ、パナソニック、ファナックといった大企業が巨大な計算能力を購入してくれる可能性を考えることで、物理空間のデジタルツインはOpenAIにとってより優先順位の高い事業分野になるのです。

 ではなぜ「Soraをやめると洗濯ロボットが登場する」のでしょうか?

 フィジカルAIの最有力な導入先は業務用であることは間違いありません。しかしよりたくさん売れるのは家庭用市場です。それで仮に100万円以下で人型ロボットが売り出された場合、わたしたちは何に使うでしょうか?

 家事の仕事で一番大変なのが掃除と洗濯です。なかでも洗濯乾燥機で洗い終わった洗濯物に、アイロンをかけて、たたんで、洋服ダンスにしまう仕事は、共働き世帯ではそれなりに負担です。

 消費者はこのようにこれまでの洗濯乾燥機やロボット掃除機、食器洗い機ではこなせなかったタスクを人型ロボットに代行させるだけでもかなり助かります。加えて不在時には在宅警備の役にも立ちますし、帰宅前にエアコンのスイッチを入れてもらうなど生活も便利になります。

 そして実は家庭内にAIロボットを入り込ませることは、家電メーカーにとっては最優先課題のひとつです。

 なぜならそれはロボットの形をしたAIエージェントになりますから、その製品自体が家庭向け消費のイニシアチブを手にすることになります。アマゾンや楽天、イオンやセブンイレブンはAIロボットに多額の広告費用を払わなければ売り上げが成り立たなくなるかもしれません。

 これまでスマートスピーカーや掃除ロボット、インテリジェント冷蔵庫などの家電製品がそのポジションを狙ってきたのですが、うまくいっていません。一方で人型ロボットはその本命といわれる重要製品なのです。仮想空間の出現は、その開発がいよいよ本格段階に入ることを意味します。

 こうして俯瞰してとらえると、Soraのサービス終了は利用者にとっては寂しいニュースですが、家電メーカーやロボットメーカーにとっては開発環境の転換点、一般の消費者にとっては夢のような未来が訪れる前の時代の転換点だったというニュースだったのです。

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