仕方なく先輩に当たる人物に電話で催促させたけれども、いつまでたっても原稿が出てこないため、訪問して事情を探ってくるように言うと、

「勘弁してください。僕は雑談が苦手だから、そういう役回りは絶対に無理です」

 と言って、またしても逃げようとする。頑なに拒絶するため、再度先輩格の人物に頼んだが、なぜそこまでコミュニケーション場面を避けようとするのか、その心理が理解できないという。

人からどう思われるか
過剰に気になる「対人不安」

 カウンセリングの場で、対面のコミュニケーションが苦手だから、会社勤めは無理なので農場か牧場に就職したいという学生や、人と話すと緊張するからコンピュータ相手の仕事しかできない気がするという学生に耳を傾け、問題解決の方向性を一緒に探ることもよくあった。

 対面場面が苦手なだけでなく、電話も臨場感があって緊張するから苦手で、何でもメールで済ましているという者もいる。

 さらには、メールでも、相手がどう思うか、失礼にならないか、気まずい感じにならないかなどと、あれこれ想像しているうちに臨場感に押し潰され、なかなか出すことができないという者もいる。

 そのような、コミュニケーションが苦手という人たちが抱えているのが対人不安という心理である。その心理を踏まえて対応の仕方を考える必要がある。

 心理学者バリー・R.シュレンカーとM.R.リアリィによれば、対人不安とは、現実の、あるいは想像上の対人的場面において、他者から評価されたり、評価されることを予想することによって生じる不安のことである。実際に人と一緒の場面だけでなく、これから人と会うと思うときも、相手からどう思われるかが気になり、不安になる。それが対人不安だ。

会話が途切れると
頭の中が真っ白になる

 初対面の相手との場で気をつかって疲れるばかりでなく、職場の人でも、親しい友だちと違って、非常に気をつかって疲れる。

 そのような人がよく口にするのが、「間がもたない」という言葉だ。あいさつはできるし、伝えるべき用件があれば言えるのだが、必要なことを言い終えた後、何を言ったらよいかわからず、何か言わなくてはと思っても焦るばかりで頭の中が真っ白になり、何も思い浮かばない。沈黙が重くのしかかり、間がもたない感覚に苛まれる。