個人の安定を壊す機会を企業側が積極的に作る
ここで視座を変えて、シニア社員をマネジメントするHR(人事)担当者は何をするべきか?という視点から、鵫巣さんの考えを聞いた。「社員を自立させるためには、個人の安定を壊す機会を企業側が積極的に作る必要がある」という。
鵫巣 いまは変化の激しい時代なので、企業は絶えざる変革をしないと生き残ってはいけません。一方で、人間の本能は、脳が変化を嫌うので安定を求めます。この、変革しなければいけない企業と安定を求める個人との溝をどのように埋めていくかというのが、HR担当の重要な仕事ではないかと思います。ポイントは、個人の安定を壊す機会を企業側が積極的に作ることです。
経営者にコーチングをしていると、多くの経営者が異口同音に「社員に自立してほしい」「社員が自走する組織を作りたい」と言います。それに対する私の答えは、「(社内という)温室の中で社員に自立を求めても無理です。温室から外に出しましょう」となります。その意味で、勤務をしている職場を離れ、まったく異なる環境(他社)に身を置いて働く体験をする「越境学習」などは、どんどん推進すべきだと思います。
ある大企業の50代の情報システム部門の方が、越境学習のマッチング・サービスを提供する企業の斡旋で、DX化で悩む地方企業と面談したのですが、すぐに、その地方企業からお断りの連絡が入ったそうです。理由は「DXに詳しい人にしかわからない横文字ばかり使う」「上から目線でこちらに接する」といったものでした。それまで、自社という温室から出たことがなかったため、自社でのコミュニケーションが特殊な構造であることを理解できていなかったわけです。
この状態で定年を迎え、初めて温室の外に出るようになったときに何が起こるか、想像に難くありません。
「そのまま退社してしまうかもしれない」という理由で、越境学習に二の足を踏まれているHR担当の方も見受けられます。しかしながら、社員を社内に囲い込んでいる限りは、社員の自立は困難になると思います。外でどんどん学んでもらったほうが、企業のためにもなるし、働く本人のためにもなると思います。
シニア社員向けの1on1に難しさを感じている企業も多い。この対応について、鵫巣さん自身の体験も含めてアドバイスしてもらった。
鵫巣 いまの時代、マネジャークラスもリーダークラスも自分の部署に年上の部下がいない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。私自身も会社勤めの頃、年上の部下がいましたが、面談などで苦労した記憶はありません。個人的な感情を挟むとおかしくなるので、仕事上の成果を求めていく、チームの成果を求めていくという一点に集中すると、年上だろうが年下だろうが関係なく対話できるし、失礼に当たらないと思います。
ドラッカーは、「なされるべきことを考えることが成功の秘訣である」と言います。この仕事で何をなすべきか、チームとして何をなすべきか、という観点で対話すれば、年上の部下だからといって頭を痛めることはないと思います。
先に述べたように、年齢を重ねていくほど、貢献する喜びを感じられるようになります。その意味では、年上部下に対して、小さな貢献であっても、お願いしたい貢献を言葉に出してアサインするべきです。もちろんその際には、リスペクトをもって接しなければならないということは年上部下と仕事をする上での大原則であることは言うまでもありません。








