一方で、現在の習近平は、「習近平思想」を人民に押しつけたり、反腐敗闘争を名目に政敵を排除したりするなど、毛沢東時代を思わせる手法を好んでいるように見えます。あれほど苦しい経験をしたはずなのに、いったい何を学んできたのか、という疑問はどうしても残ります。

田舎の中国人に人気がある習近平
「情報環境」「教育状況」にも理由が…

兼原:7年間も下放されてずっと田舎で農業をやっていて、突然清華大学に入っても絶対に勉強の内容は分からないですよね。国際金融や国際経済や国際政治とは全く無縁の生活をしていたわけですから。首脳が集まるような国際会議に来たところで、多分議論には全くついていけないでしょう。

 最初にG7首脳会合に参加した頃の日本の首相もそうでしたが、それよりももっとひどいのではないでしょうか。

垂:それが実態でしょうね。しかし、毛沢東の言葉はすらすらと口をついて出てくるのですよ。下放時代は毛語録がほとんど唯一の読み物であり、当時の青年にとって思想的に大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。

兼原:習近平坊やが北京を追放されるとき、家族に「よかった。ここにいたら殺されるからね」と言ったという話をエコノミスト誌のポッドキャストで聞いたことがあります。必死で善良な共産党少年の振りをしてきたのでしょうね。つけ込まれる隙を作らないためにも、若い頃は紅衛兵になりきって、一生懸命に毛沢東語録を読み込んだのでしょう。

 でも田舎に行くと人気があるんですよね。習近平には下放時代の経験から貧しい田舎の中国人には共感がある。幼いころからちやほやされて金権腐敗にまみれた北京や上海のエリートには反感がある。貧しい田舎の中国人に人気のある自分こそ、本当の共産党員だと思っているのではないでしょうか。

垂:もちろん中国には14億人もの人民がいるのですから、多様な考え方や立場が存在します。ただ、都市部と地方では情報環境や教育状況にかなり差があります。地方で行われているのは、端的に言えば「体制に都合の良い形での教育・宣伝」、つまり愚民化政策です。その結果、若い世代を共産党支持へと導くことに一定の成功を収めています。