
兼原信克
日米韓で安全保障協力の強化が合意された背景には「膨張中国」への危機感とともに日韓関係の改善があった。合意の実効も台湾有事の際の韓国の対応や3国では最も関係が弱い日韓の連携が進むかが重要だ。

米中対立激化で“新冷戦”といわれる中、日本は高性能の半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加するが、貿易政策だけでなく、先端工場建設助成や防衛産業再編など安全保障を目的にした産業政策が必要だ。

ウクライナ侵攻を見ても、長期独裁化する習近平中国国家主席が米国の意図を読み違える「判断間違い」から台湾有事が起こり得る。反撃能力保有や防衛費増強は日本の安全保障を確保する必然の課題だ。

「台湾有事」となれば「日本有事」になる可能性が高く、「GDP比1%」に象徴される防衛政策は非現実的だ。防衛費増額議論では財源についても増税などの現実的な手段を検討する必要がある。

参院選に勝利した岸田政権の安全保障政策の最重要課題は「反撃能力」の充実だ。ウクライナ侵攻を見ても非現実的な専守防衛論を脱却し中距離ミサイル整備など敵の攻撃への抑止力強化は喫緊の課題だ。

ウクライナ侵略は日本にとっても他人事ではないが、「台湾有事」などを想定すれば日本が決定的に弱いのはサイバーセキュリティの体制だ。専門の危機管理監を置き人材や資金を投入した統合体制の整備が急務だ。

クリミア併合以来、ウクライナの人心はロシアを離れロシアは武力で恫喝するしかウクライナを抑える方法はない。一方でウクライナはNATOの防衛圏ではなく、ロシアが軍事力頼みを止められないことがウクライナ危機の深刻なところだ。

岸田政権は経済安全保障を主要政策課題に掲げる初めての政権だが、対中技術流出防止や半導体や希少資源などのサプライチェーンの確保などに世界が本気で取り組むなかで、日本の課題は多い。

アフガニスタン戦争は米軍の撤収という形で終わった。本来はテロの首謀者とされるビンラディン殺害の時点で終わったはずだが、「民主アフガン建設」という米国の“理想”の押しつけが戦争を長期化させた。

G7サミットでは中国を意識して民主主義国家の結束が確認されたが、今後の連携の主舞台はインド太平洋地域だ。経済や安全保障の世界の戦略的地域になり、日本外交の中心軸になる。

日米首脳会談で台湾有事を想定した連携強化が確認されたが、中国の膨張の根底には歴史に根差したナショナリズムがある。軍事的な対応とともにナショナリズムの暴発を抑えることが重要だ。
