血管から出血があった時、彼が自分でデザインした「ガイエモデル」と呼ばれるバイポーラ鉗子(先端の2つの金属の間に電流が流れる)を当て、ほんの一瞬「タック!」と通電する。こうすると、組織を損傷することなく、血管の穴だけを凝固させてふさぐことができるのだ。
フレンチ・タッチは仕事の至る所にちりばめられていて、日本式の「ハード・タッチ」に染まっていた僕にはどれも輝いて見えた。
例えば昼食。膵頭十二指腸切除という手術は「標本を採る」工程と「腸などをつなぎなおす」再建パートに分かれていて、日本だと開腹でも8時間くらいかかる作業をぶっ通しでやっていた。
『変革する手術「神の手」から「無侵襲」へ』(石沢武彰、KADOKAWA)
でも、ガイエ先生は内視鏡で3時間もかからず切除を終えてしまう。標本を体内で袋に収納すると、みんなでランチタイムだ。IMMには素晴らしい職員用レストランがあり、ホテルのバイキング並みの質と量で料理が並んでいる。フルーツも充実しているが、日本のようにカットされず「丸ごと」山積みにされているのが常だった。
ガイエ先生は大きな左手でスイスイと洋ナシの皮を剥きながら、文字通り世界中からやって来る見学者と談笑する。彼が放つ温かいオーラの中では、専門分野や職種、ベテランと若手、男と女、国と国との間にある壁が蒸散する。
「そろそろオペに戻らないと……」と心配になる頃、彼の巨体はようやく「ボン、アロンズィ(よし、行こう)」と立ち上がる。行き先は2階のカフェテリア。フレンチコーヒーを1杯飲んでから、ようやくオペ室に戻るのだ。
それから2時間くらいで再建を終えてしまう。本人がいかに謙遜しようと、皆が「天才、奇才」と尊敬する所以だ。







