想定外だった
神取の「本気の顔面パンチ」
たしかに映像を確認すると、5分が経過する直前に神取が腕ひしぎ逆十字固めを仕掛けるのだが、現在の格闘技の試合なら、レフェリーがすぐに止めるレベルで極まっている。
もし、ここで終わっていれば、番狂わせとして話題にはなったかもしれないが、ケンカマッチとして語り継がれることはなかっただろう。そして、山本たちスタッフが想定していたシュートマッチも、こういうスタイルだった。
しかし、自ら技を解いた神取はジャッキーの顔面を殴った。5発、6発。レフェリーのグラン浜田は「パンチはダメだ」と神取に注意はするが反則は取らない。異変に気づきながらも、なんとかプロレスに戻そうと顔面を突き出して「パンチを打ってこい」と挑発するジャッキー。その言葉に冷徹かつ的確に顔面パンチを打ち続ける神取。
『証言 プロレス界ケンカマッチの真実』(佐山聡・藤原喜明・川田利明・船木誠勝ほか、宝島社)
ジャッキーは顔に手をやって、目が腫れていること、そして出血していることを知る。完全にプロレスの枠を超えた試合になってしまった瞬間だった。シーンと静まり返る場内。神取の怒り、憤りは関節技で制裁するだけでは収まらなかったのだ。
スタッフが想定していた試合を超えただけでなく、これはおそらくシュートになるとわかっていたジャッキーの想定をも、大きく超えてしまったのだ。
全日本女子プロレスにも「ピストル」というシュートを意味する隠語がある。ただ、これはいわゆる「抑え込み」の強さによって勝敗を決しようというものであり、百歩譲ってグラウンドでの関節技は想定の範囲内かもしれないが、さすがに顔面を本気で殴る攻撃は予想外だった。
ここまで神取がやるとわかっていたら、そのままジャッキーがリングに上がっていたとは思えない。これほどシュートマッチに対する認識の隔たりが2人の間にはあったのだ。







