話は2018年8月に遡ります。広告事業は数十万円規模の赤字を出して、売上目標の数千万円が未達という状況でした。自ら立ち上げた事業を撤退しなければいけなくなるかもしれない、と焦りを抱いたa氏は、架空取引で赤字を補てんすることにしました。
その時は一時的に赤字の穴を埋めて、その後、正規の取引の利益で取り返せばいいと考えていたのです。
しかし、この「ちょっとだけ」が、全ての始まりでした。
a氏が手を染めたのは、架空循環取引と呼ばれる手口です。実際には存在しない広告案件の伝票だけを、複数の会社の間でぐるぐると回し続けることで、あたかも売り上げが発生しているように見せかける……いわばネタの乗っていない空の皿だけがレーンを回り続け、誰も食べていないのに会計伝票だけが膨らんでいく「空回り回転寿司」です。
調査報告書を基に筆者作成拡大画像表示
2019年3月期には、架空の売り上げはおよそ4億円でした。それが翌年には11億円、24億円と膨らみ、22年3月期には88億円に達します。そして24年3月期には543億円、25年3月期にはついに824億円にまで雪だるま式に膨れ上がりました。数千万円の穴埋めのつもりが、取り返しのつかないうそになってしまっていたのです。
調査報告書には、周囲が業績不振に苦しむ中で自分で立ち上げた広告事業だけが好調に見えていたため、架空な取引である以上、広告事業を拡大すべきではないと言い出すことができなかったというa氏の心境が記されています。また、架空であっても利益面で会社に貢献しているという、一種の正義感すら抱いていたといいます。







