さて、ここで一つ、冷静に考えておきたいのが、不正が発覚したのは何がきっかけだったのか?

 社長の違和感が起点となったこと自体は間違いありません。トップが「おかしい」と声を上げなければ、この不正はさらに続いていた可能性が高い。そして、その嗅覚の決定打となったのはPwCの監査による指摘でした。

 しかし、一方で、7年間この不正を見抜けなかったのもまた事実です。最終的に不正が露見したのは、資金の循環が物理的に止まったからでした。循環取引はポンジ・スキームと同じ構造を持っています。いつかは必ず破綻する。その「いつか」が来ただけともいえるのです。

 社長の直感・監査法人の指摘・資金ショートという3つが重なって、ようやく7年目にして真実が表に出た、といえるでしょう。

腐っていなかったトップ
そして私たちへの教訓

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 この事件を振り返ったとき、一つだけ救いがあります。

 それは、KDDIのトップが腐っていなかったということです。

 社長自らが異変を察知し、内部監査を指示した。調査報告書は特別調査委員会、つまり外部の専門家と社内のメンバーが中心となってまとめたものですが、その内容には一切の忖度がありません。事実だけを客観的に、淡々と、しかし徹底的に記述している。発覚からわずか3カ月で報告書を公表した情報開示のスピードも見事です。

 以前、大きな話題となったニデックの会計不正では、会長自身が従業員に課した強いプレッシャーが、不正の一因となっていました。トップが腐れば、組織全体が腐る。しかし今回は、トップが健全だったからこそ、ここまで誠実な対応ができたのでしょう。

 今回の架空取引を主導したa氏は、はじめは数千万円の穴を埋めようとしただけでした。それが7年で2461億円の大きなうそに膨らみました。

「ちょっとだけ」「一時的に」「あとで取り返す」――不正は、いつもそんな小さな言い訳から始まります。そして、取り返せる日は永遠にやってきません。

 a氏は社内で好業績を表彰されていたといいます。架空の数字で築いた好成績が称えられるたびに、本当のことを言い出す機会は遠のいていったのではないでしょうか。組織が数字だけを見て人を評価するとき、その裏側で何が起きているかに、もっと敏感でなければならない――そう感じた出来事でした。

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