昭次の耳には届かなかった。
「その時はもう本当に絶望で。とにかくまず娘のことが頭に浮かび、家族のこと、親のことを思うと涙があふれて止まらなくなって。自分の愚かさに情けなくて情けなくて。泣いてもしょうがないんですけど、もう本当に絶望でしたね。男闘呼組の看板にも泥を塗ってしまった」
しばらくして、昭次は雑居房に移動する。
畳が敷かれた雑居房で、他の被疑者との共同生活が始まった。トイレットペーパーの代わりにちり紙が支給されたが、自殺防止のため支給枚数は決まっていた。
鉄格子を見ながらの食事は、何を食べても味が感じられなかった。
弁当や丼物、菓子などを購入する同居人も多かったが、昭次は「自分は罪を犯した身」と3度支給される食事、その際に出される白湯すら、その費用の出どころが警視庁、ひいては国民の税金だと思うと申し訳なく感じ、支給された以外のものを購入することはなかった。
被疑者ノートと呼ばれるノートに事情聴取の内容と、留置場内で内省を深め、その思いを日々綴った。
昭次の母は、職場に自分宛に電話がかかってくることなど初めてだった。
「母さん、絶対に動揺するなよ」
冷静をうながす長男の言葉に、ただならぬ事態なのだと察し思わず身構える。しかし、その内容は想像した最悪を遥かに上回った。
「昭次が逮捕された」
しっかりしなければと思っても、膝の力が抜けていくのがわかった。
失って初めて
大切さに気付いた
昭次の面会に誰よりも早く訪れたのは母だった。アクリル板の向こう側、泣き崩れる母の姿を見て昭次は涙する。ただただ自分が情けなかった。
「何で、ここまでのことにならなきゃわかんなかったんだ」
母は面会のため何度も上京を繰り返した。翌日仕事が休みの日は必ず、名古屋から東京まで夜行バスに7時間揺られ昭次に会いに行った。
昭次は雑居房で3週間を過ごす。自己嫌悪に苛まれ、猛省の日々だった。
目前の鉄格子が、これまでの日常と今を遮断する。愚かさと情けなさに、とめどなく涙がこぼれた。
「ルールから逸脱しておきながら、バレなければ……見つからなければ……自分だけは……気づかないうちに、どこまで傲慢(ごうまん)になっていたのか。自分の犯した罪は自分で償うしかない。ただ、これからどれだけ時が経っても決して消えるわけではない。罪を犯したことは、一生戒めとして、忘れてはいけない。ずっと……」
より身を切り裂かれる思いだったのは、自身のこと以上に、娘、家族、友人、ファンを考えたときだった。
「娘は、どれだけ肩身が狭い思いをするだろう。父親のせいで、どれだけしなくていい苦労をこれからするのだろう……。自分の愚かさで多くの人を傷つけ、悲しませてしまった。そんな言葉では足りない。裏切ってしまった。未熟だった。大切な人たちを裏切り、傷つけてしまったことを一生背負っていかなければいけない」







