昭次は、決して繰り返さぬよう、戒めのために何をすべきか考え続けた。
思いついた答えは、昭次が人生で最も大切にしてきたもののひとつ、ギターを弾くことを禁忌とすることだった。
「最も自分の人生に影響を与えたものを手放そう」
数年ぶりに兄と再会し
昭次は抱きしめられた
逮捕から3週間後、保釈が認められ、昭次は名古屋の実家に戻る。
兄・健一が玄関まで出迎えてくれた。
兄と最後に顔を合わせたのは数年前。東京で会った際、些細な揉めごとで喧嘩別れして以来、音信不通が続いていた。
「叱責されるか、罵られるか……。できればいっそぶん殴ってほしかった。どうしようもない弟を」
兄はたったひと言、「大変だったな」と言うと、昭次を抱きしめた。昭次が、留置場内で心に決めたことを兄に伝える。
「兄貴、俺、二度とギターを弾かない」
そこに込めた思いに気づかない兄ではない。それでも、努めて明るく兄は言った。
「好きなんだろ、ギター」
音楽からも距離を置くつもりでいた弟に向かって兄は続けた。
「まあギターじゃなくても音楽できるじゃん。別に他の楽器でもいいし、歌だけでもいい。俺がギターを弾くから、ベース弾けよ。一緒にバンドやろうぜ」
兄の言葉に、昭次がどれほど救われたか。
「で、これからどうする?決まってないなら美容師になれよ」
そんな兄弟の何気ないやり取りを母は見つめた。
『人生はとんとん―成田昭次自叙伝―』(成田昭次、集英社)
「もちろん諸手を挙げて喜んでいい状況ではないです。ただ、16歳で親元を離れていった昭次が思わぬ形とはいえ帰ってきた。初めて親子3人水入らず、兄弟が何気ない会話をしている姿を見ているだけで、ああ、いいなあ、幸せだなあって。あの日々、私は人生でいちばん幸せでした」
しかし、その時間は長くは続かなかった。
当時、兄は妻子と他県で暮らしていたものの、体調を崩し療養のため名古屋の実家に戻っていた。
昭次は、兄のために少しでもできることはないか考え、「自分の家族と一緒にいることが兄貴にとって最善ではないか」と説得し、兄は家族の元へ戻ることになる。
11月10日、昭次は兄と一緒に兄の家まで行こうとした。しかし、兄はそれを拒んだ。「大丈夫。ひとりで行けるよ」。昭次は兄を駅で見送る。なぜあの時、駅で別れたのか、家まで送っていれば……。その日、バケツをひっくり返したような雨が降った。
そして、その夜、兄は帰らぬ人となった。







