将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な習慣によって、そのリスクを高めてしまうことがわかった。その影響は20代から始まっているとも言う。
その事実を紹介したのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』だ。認知機能を崩壊させる「黒幕」の正体や、そのメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介した同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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「性格が変わった」と感じたら要注意
「最近、別人のように怒りっぽくなった」
「急に疑い深くなった」
「意味のわからないことを言うようになった」
こうした変化を、「性格の問題」だと片づけてしまうことはないだろうか。
じつはこうした変化の背景には、脳の病気が潜んでいる場合がある。
元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は著書『糖毒脳』で、アルツハイマー病の進行に伴って起きる変化について次のように説明している。
病状が進むと、中核症状に加えて、まるで性格が変わってしまったかのように見える「行動・心理症状」(専門的には「随伴症状」とも呼ばれます)が出現します。
これは単なる物忘れでは片付けられない、より複雑で、周囲の人々を困惑させるような行動として現れます。家中を徘徊したり、暴言を吐いたり、あるいは家族に対して根拠のない被害妄想を抱くようになる、といった行動がこれに相当します。
――『糖毒脳』より引用
怒りっぽくなる。
疑い深くなる。
落ち着きがなくなる。
こうした変化は単なる性格の問題ではなく、脳の異変のサインである可能性がある。
映画「エクソシスト」の真実
アルツハイマー病以外にも、脳の異常が精神や人格に影響を与えるケースは少なくない。
こうした例として、しばしば挙げられるのが映画『エクソシスト』だ。1973年公開のホラー映画『エクソシスト』は、少女が悪魔に取り憑かれ、常軌を逸した行動をとる姿を描き、世界中に衝撃を与えた。
映画のモデルとなったとされる少年は、人格の変化、幻覚、妄想、奇妙な体の動き、そして理解不能な言葉を発するなど、まさに「悪魔に憑かれた」としか思えない症状を呈したと言われている。
この少年については、後に詐病の可能性も指摘されているが、一方で、実際に悪魔憑きのような症状を呈する疾患も知られている。それが「抗NMDA受容体脳炎」という病気だ。
下村氏は『糖毒脳』のなかで、こう説明している。
抗NMDA受容体脳炎は、自己の免疫が脳の神経細胞にある「NMDA受容体」という部分を攻撃してしまうことで発症します。NMDA受容体は、記憶や学習、感情、行動など、脳の重要な機能に深く関わっています。この受容体が攻撃されると、脳の働きが混乱し、まるで脳が乗っ取られたかのような症状が現れるのです。
――『糖毒脳』より引用
抗NMDA受容体脳炎の患者は、人格が突然変わったり、幻覚や妄想を見たり、意味不明な言葉を叫んだり、てんかん発作を起こしたり、体が勝手に動いたりすることがあるという。
まさに映画『エクソシスト』の少女が見せた症状と驚くほど酷似しているのだ。
「性格が変わった」
「様子がおかしい」
こうした変化を単なる性格の問題として見過ごさないことが重要だ。
それは、脳から発せられている重要なサインかもしれない。
(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








