ホルムズ海峡で始まった「ドルと人民元の戦い」
イランによるホルムズ海峡の占拠は、この戦争に決定的な地政学的・経済的影響を与えた。イラン議会安全保障委員会は、海峡での「通行税」を課す法案を承認。通過する船舶に対し、原油1バレル当たり約1ドルの通行料を、人民元または暗号資産で支払うよう要求した。
大型タンカー1隻あたり最大200万ドル相当であるが、これは戦費を必要とするイランにとっての貴重な財源になるだけではなく、重要な意味を含んでいる。
中国が長年サウジアラビアなどの産油国に働きかけても限定的だった「人民元建て取引」を、物理的な海峡封鎖という手段で強制的に既成事実化させようとする試みだ。世界の石油輸送量の5分の1が通過する同海峡でこれが定着すれば、脱ドル化は不可逆的な勢いを持つ。
興味深いのは、トランプ大統領の反応だ。「イランは通行料収入を使って復興を始められる」「アメリカは海峡の交通量増加で協力する」といった発言は、たしかに一見融和的だ。だが、その真意は「イランをドル体制の外に追いやるのではなく、通行料を容認する代わりに、その後の巨額決済をドル取引に引き戻す」という、力による回収の意図が見え隠れする。
停戦後、イランを脱ドル路線の旗手にさせるのか、あるいはドル体制へ再統合するのかという米中の綱引きは、ここからが本番である。
イスラエルの影と、NATO加盟国の「冷淡な拒絶」
今回の作戦において、トランプ大統領を最も苛立たせたのは、欧州のNATO加盟国の非協力的な態度だ。トランプ大統領は対欧政策の見直しにまで言及し、同盟の亀裂を露呈させている。
欧州諸国の拒絶は、単なる「トランプ嫌い」によるものではない。象徴的だったのは、親トランプとされるイタリアのメローニ首相の対応だ。彼女は議会演説でこの攻撃を「国際法の枠外の介入」と切り捨て、米軍爆撃機のシチリア島・シゴネラ基地への着陸さえ拒否した。
その背景にあるのは、2023年10月以降、ガザで無辜(むこ)の民が命を落とす光景を見続けてきた欧州世論の「イスラエルへの厳しい視線」である。今回の作戦が、ネタニヤフ首相に誘引された「イスラエルのための戦争」という性格を帯びた瞬間、リベラル世論の強い欧州諸国にとって、軍事協力は政治的自殺行為となった。
2024年4月にイランがイスラエルを攻撃した際に見せた「防衛協力」とは対照的に、今回の「先制攻撃」への加担は明確に拒絶されたのである。この欧州の離反は、中国にとって「将来の台湾有事において、アメリカを欧州から孤立させる」ための絶好のケーススタディとなったに違いない。







