Photo:Katsumi Murouchi/gettyimages
日本では、「国民皆保険」は空気のように当たり前の存在になっている。だが、その意義や構造が十分に理解されないまま、制度改革の議論だけが進めば、皆保険の根幹が揺らぎかねない。国民皆保険はいかに形成され、何を守り、何を見直すべきなのか。特集『ベスト経済書2026』(全10回)の#10では、『日本の国民皆保険』の著者である島崎謙治・国際医療福祉大学大学院教授が、医療政策史からその本質と課題を解き明かす。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
「当たり前」になった
国民皆保険の価値を問い直す
われわれ日本人にとって、「国民皆保険」は空気や水のように当たり前の存在となっています。このため、「世界に冠たる」とか「国民皆保険の堅持」といわれる割には、日本の国民皆保険のありがたさについて突き詰めて考えられていません。
その結果、意識せぬまま、あるいはまっとうな議論が行われずに国民皆保険が形骸化する恐れがあります。本書を執筆した動機は、一人でも多くの方に国民皆保険の意義や課題について真剣に考え、医療政策の議論に積極的に参画してほしいと思ったからです。
島崎謙治(しまざき・けんじ)/ 1978年東京大学教養学部卒業、厚生省入省。2001年厚生労働省保険局保険課長、03年国立社会保障・人口問題研究所副所長、06年東京大学大学院法学政治学研究科グローバルCOE特任教授、07年政策研究大学院大学教授を経て、20年より現職。主な著書に『日本の医療-制度と政策(増補改訂版)』(東京大学出版会)、『医療政策を問いなおす-国民皆保険の将来』(筑摩書房)など
そのための最良の手法は歴史から学ぶことだと思います。温故知新という言葉がありますが、国民皆保険の行く末が危ぶまれている今日、新しい視座や道標を得る上で役立つのは、先人が歴史の分岐点でいかなる政策選択を行ったのかを「追体験」することです。それによって初めて、国民皆保険の真に守るべき要素と改めるべき要素の仕分けができるはずです。
本書は、構造・軌跡・展望の3部構成で成っています。まず、Ⅰ部で日本の国民皆保険の構造の要点について国際比較を含め解説しています。続くⅡ部では、社会保険方式、被用者保険と国民健康保険の2本建て、独立型の後期高齢者医療制度という日本独自の仕組みが、なぜ、どのように生まれたのかを丹念に分析しています。
そしてⅢ部で医療提供制度および医療保険制度に分け政策課題や展望について実証的に考察しています。内容を相当詰め込んだため、新書としては相当分厚く、やや難解になったきらいはありますが、幸い読者に恵まれ好評を博したことは望外の喜びです。
国民皆保険は、単なる医療保険制度ではない。歴史の中で積み重ねられてきた政策選択の産物であり、微妙な均衡の上に成り立つ社会の基盤である。次ページでは、島崎氏がその構造を知らずに改革を語ることの危うさを指摘する。







