「今回のドラマはサスペンスだから、緊迫系の曲が3、4曲は必要だろう」「感情に訴えるシーンも多いだろうから、感動系の曲を3曲ほど。その中には、温かい雰囲気のものと、少し冷たい雰囲気のものを混ぜておいてほしい」といった具合に、非常にざっくりとした指示が出される。

 メインテーマなどの主要曲には、ある程度イメージを伝えてくれた覚えもあるが、キャラクターのテーマ曲が必要な場合でも、「このキャラクターにはカッコいい系のテーマ曲がほしいから、人物像を読んで思いつくものを作っておいて」という程度だった。

 この、あまりにも大枠な指示に対して、18曲から20曲ほどを制作するのが常だった。その指示を受け、「緊迫系を5曲、感情系を4曲、そしてメインテーマ……」というように、自分なりのメニュー表を組み立てていく。自分の中でバリエーションを考え、これらの曲があれば物語全体をカバーできるだろう、という構成を練り上げるのだ。

 まずデモを8、9曲提出すると、「なるほど、こういう方向性か。ではこれに加えて、こういう雰囲気の曲も足りないから作っておいてほしい」というフィードバックがあり、それに基づいて残りの楽曲を制作し、レコーディングに進む。これが、彼との仕事における基本的な流れだった。メニュー表らしいメニュー表を提示された記憶は一度もない。

細かすぎる指示は
自由な発想を妨げることも

 制作にあたって、もちろん資料が何もないわけではない。シナリオと、作品の概要が書かれた企画書のようなものは事前に渡される。ただし、映像はまだ撮影の途中段階であることがほとんどのため、映像を見ながら音楽を作ることはない。

 それに、これはドラマに限った話ではないが、僕自身、脚本を隅から隅まで読み込んで音楽を作るタイプの作曲家ではない。企画書に書かれている概要で作品の全体像を把握し、あとは音楽の打ち合わせでプロデューサーや監督とイメージを擦り合わせていくスタイルがほとんどだ。