彼は業界内でも少し特殊な存在として知られていた。若くて面白い才能を見つけては、積極的に起用する人物だったのだ。その分、我が強い部分もあったが、自分が「面白い」と感じた人間には、惜しみなくチャンスを与えてくれる人だった。
当時、彼には推薦する音楽家を自由に決めることができる裁量権を持つ作品がいくつかあった。『Ns’あおい』での仕事を評価してくれたことで、そういった作品に僕を積極的に推薦してくれるようになった。そこで次に舞い込んできた大きなチャンスが、ドラマ『医龍』だった。
実は、当初『医龍』の音楽は作曲家の河野伸(注4)さんが担当する予定だった。しかし、河野さんのスケジュールの都合でテーマ曲くらいしか書けないという状況になり、そこで選曲家が僕を強く推してくれた。
「ちょっと面白いやつがいるから、彼を入れさせてくれないか」とプロデューサーに掛け合ってくれたのだ。こうして、僕は『医龍』の劇伴制作チームに加わることになった。
テーマ曲を書けない中でも
自分なりのアプローチを模索
参加が決まった時には、メインテーマ以外の楽曲を僕が担当する、という状況だった。もちろん作品に関われることは非常にありがたかったが、作品の顔であるテーマ曲を手掛けられないという状況に、少しだけテンションが下がっていたのも事実だ。
「テーマ曲はやれないのか」という思いを抱えながらも、それ以外の楽曲で自分なりのアプローチをしようと気持ちを切り替えた。
そんな中、選曲家から意外な言葉をかけられた。「このドラマは医療ものだが、これまでの医療ドラマの音楽を意識する必要はない」と言うのだ。彼が例として挙げてきたのは、当時流行していた海外のドラマ『CSI:科学捜査班』(注5)シリーズだった。
(注4)1964年生まれ、東京都出身の作・編曲家、キーボード奏者。菊地成孔、原みどりと結成したSPANK HAPPYで1994年にデビュー。脱退後はドラマや映画、CM音楽、劇団四季などの舞台の音楽を手掛けるなど、多岐にわたって活躍。
(注5)アメリカ合衆国のCBS他にて2000年から2015年まで放送された、ラスベガス警察科学捜査班の活躍を描くドラマシリーズ。主題歌はザ・フー「Who Are You」。







