こうした脳の性質を、意図的に活用している人たちはたくさんいます。

 たとえば、ノーベル化学賞を受賞した北川進博士は、朝の散歩中にその日の仕事を頭の中で整理するといいます。散歩は、DMNを働かせるのにもっとも適した手段のひとつなのです。

 他にも、作曲家のバッハやベートーヴェン、哲学者のカント、小説家のディケンズなども、散歩を欠かさない習慣がありました。

 彼らはひらめきが生まれやすい脳の状態を、経験的に知っていたのでしょう。なお、DMNは、ただぼーっとしているときだけでなく、慣れた単純作業を繰り返しているときにも活性化しやすいことがわかっています。

 たとえば、

・磨く、拭く(靴磨き、窓拭きなど)
・塗り絵、なぞり書き
・編む、縫う
・こねる(パン作り、陶芸など)

 こうした「考えなくても身体が動く作業」をしているとき、脳の管理職であるCEN(仕事ができるマネージャー)はお休みモードに入ります。代わってDMNが表舞台に立ち、静かに情報の組み換えを始めるのです。

タイパにとらわれすぎず
ぼーっとする時間を大切に

 中国の思想書である『荘子』には、「無用の用」という言葉が記されています。これは、一見すると役に立たない、無駄に見える時間や行為の中にこそ、本質的で大切な価値が宿っている、という意味の言葉。

 効率や成果だけを基準にすると、ぼーっとする時間は、どうしても「削る対象」になりがちです。でも実は、その「何もしない」の中に、あなたがずっと待っていたひらめきが眠っているのかもしれません。

 夕食後や入浴後、ついSNSや動画を眺めて時間が過ぎてしまうという人も多いでしょう。そんなときは、慣れていて、少し楽しい手作業をひとつ、生活に入れてみてください。散歩でもいいし、掃除でもいいし、編み物でも構いません。

 ただ手を動かして脳をゆるめるうちに、アーティストがあなたにそっと答えを届けてくれるかもしれません。もし何か思いついたら、忘れないうちにメモに残しておきましょう。

 ひらめきは、がんばった先ではなく、少し力を抜いた場所で、静かにあなたを待っています。

 そのうえ、前頭前野が落ち着くことで、眠りの質がよくなる、というオマケ付き。就寝前の習慣に、ぜひ取り入れてみてください。