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AI(人工知能)には“貧富差”拡大の危険が伴う。米国では製造業回帰の雇用効果が薄い中、AIが富裕層を潤す一方で中間・若年層を直撃する懸念がある。特集『総予測2026』の本稿では、AIがもたらす“分断の未来”をノーベル賞学者が読み解く。(聞き手/在米ジャーナリスト 岩田太郎)
富める者はさらに富み
貧しい者はさらに貧しく?
――トランプ米大統領の経済政策に関しては多くの批判がありますが、一つ肯定的な面があるとすれば、製造業の米国回帰などを通して労働者層が自主性と自律性を取り戻す潜在的な可能性であるという見方があります。
私は製造業の回帰を長年支持してきました。回帰策については米バイデン前政権でも多くの試みがなされました。しかし、米国に工場が戻ってきても、必ずしも米国の雇用が増えるとはいえません。
――トランプ政権は製造業プロジェクトを多数打ち出しましたが、同部門の雇用は減っています。
製造業における自動化が進んでいるからです。また、トランプ政権は科学振興や研究費の予算を大幅に削減しており、結果的に製造業の雇用を減少させるでしょう。
他方で、トランプ政権は関税を使って日本などの自動車メーカーに米国における生産を増強させようとしています。それは、ウィンウィンの関係であると思う。しかし、雇用面から見れば製造業の米国回帰の効果は限定的です。
――米国民の生活に目を移すと、中間層や低所得層の家計が苦しくなる一方で、富裕層は一層豊かになり、“二極化”が顕著になる「K字型経済」が進行中であるといわれます。2026年は、それがさらに進むのでしょうか。
K字型経済が顕在化するという見方は正しいです。米経済は「富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなる」という経済の悪循環に陥っている。トランプ大統領による大型減税は、富裕層に有利で経済格差をさらに拡大させる。逆に貧困層は食料品を求めることさえ困難になっています。
――あなたは、教鞭を執る米マサチューセッツ工科大学(MIT)の同僚であるダロン・アセモグル教授(24年ノーベル経済学賞をジョンソン氏と共同受賞)と共に執筆した『技術革新と不平等の1000年史』で、人間が古来、革新的技術によって経済格差を生み出してきた事例を多数分析しています。そこで、現代のデジタルテクノロジー、特にAI(人工知能)の普及が、低所得層・中間層と富裕層との経済格差を拡大させるとの見方について、どう考えますか。
トランプ政権のAI政策で誰が潤い、誰が損をするのか?次ページでは、米アマゾン・ドット・コムが断行したリストラなど、米国で拡大する“AI経済格差”の深層にノーベル賞学者が迫る。







