それでも、イギリスでたばこ規制が本格化するのは1960年代になってからであり、たばこの販売量が減少に転じたのは1970年代のことであった。
なお、ヒル博士は結核治療薬の研究において「無作為化比較試験」という統計学的に新しい方法論を確立した人物でもある。今日、抗がん剤やワクチンの効果を検証する臨床試験の根幹を築いたという意味でも、人類史に残した足跡は大きい。
喫煙者の肺がん死亡率は
生涯非喫煙者の20倍
米国の「American Cancer Society」が喫煙と死亡リスクの関係を長期にわたって追跡した大規模前向きコホート研究「Cancer Prevention Study(CPS)」シリーズは、1960年代に100万人規模で開始されたCPS-1と、1980年代に約120万人の米国成人を登録したCPS-2からなり、『The New England Journal of Medicine』に発表された報告では、喫煙者は生涯非喫煙者に比べ、肺がんによる死亡率がおおむね20倍前後に達することが示された。
これは喫煙と肺がんが単なる相関関係ではなく、喫煙が肺がん死を桁違いに押し上げることを何十年もの追跡データで裏づけるものであった。
さらにこの解析では、禁煙の効果も明確に示されている。禁煙すれば5~10年で、肺がんでの死亡リスクは目に見えて低下し、15~20年でさらに大きく下がる。ただし禁煙から30年経過しても、生涯非喫煙者と完全に同じ水準までには戻らず、わずかな「残余リスク」が残ることも報告された。
ここから読み取れるのは、「喫煙は肺がん死を劇的に押し上げるが、やめるのが早ければ早いほど確実に下げられる」という、きわめて実践的なメッセージである。
たとえ今からでも
禁煙を始める価値は高い
「NIH-AARP Diet and Health Study」は全米の代表的な前向きコホート研究で、70歳以上の約16万人を対象として、禁煙開始年齢と死亡リスクの関連を詳細に検討している。
これによれば、喫煙を継続した人と比較すると、30~39歳で禁煙した人では死亡リスクが59%低下した。40~49歳で禁煙した人では49%、50~59歳で禁煙した人では36%、そして60~69歳で禁煙した人は23%、死亡リスクが低下していた。







