この結果は、若い時期の禁煙ほど得られる利益は大きいものの、60代での禁煙でも、死亡リスクが約2割低下するという、しっかりとした効果があることを示している。

 よって、「遅すぎる禁煙はない」というメッセージは、疫学的データによって確実に裏づけられているのである。

 日本のJPHC研究(編集部注/1990年から日本人の約10万人を対象に、生活習慣とがん・心筋梗塞・脳卒中などの疾病発症の関連を20年以上追跡調査している国立がん研究センターの疫学研究)でも、喫煙と肺がんリスクの関連は詳細に報告されてきた。この調査では喫煙者の肺がんリスクは、非喫煙者に対して男性で4.5倍、女性で4.2倍にのぼり、禁煙後10年以上でリスク低下が確認された。この傾向は欧米にかぎらず、アジア太平洋地域の複数のコホート研究を統合解析した結果でも同様に認められ、文化や民族の違いを超えて普遍的に適用できることが示されている。

 これらの研究は一貫して、「喫煙はがん、とりわけ肺がんに対する最大のリスク因子であり、禁煙は年齢を問わず有益である」というメッセージを示している。総じて、喫煙者の肺がん発症リスクは欧米では非喫煙者のおおよそ10から20倍、日本では4~5倍になり、禁煙後もすぐには消えないが、年々低下していき、長期の禁煙でようやく非喫煙者に近づくことが複数のコホートで確認されている。

表8-1 喫煙とがんリスク同書より転載 拡大画像表示

 なお、喫煙は肺だけでなく、喉頭、口腔・咽頭、食道、膵臓、膀胱、腎盂・尿管、肝臓、子宮頸部、胃など多数のがんのリスクを上げることから、IARC(編集部注/国際がん研究機関)では「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」と分類されている。