「今のままで成功は間違いない」
たった1つ、大反対されたことは…

「あなたは必ず株式を公開できます」と。「今のあなたの勢いがあれば、間違いありません」とまで言ってくれました。

 私が驚いたのは、稲盛さんが外食業界の商売のことを、ものすごくよく知っていたことです。後で聞いたら、稲盛さんの義理の弟さんが九州で「餃子の王将」のフランチャイズ(鹿児島王将)をやっていたんですね。それであの時、私の発表を聞いて「これはいける」と直感してくれたのでしょう。

 その時に、稲盛さんから具体的な経営アドバイスがありましたが、一つだけ、私がやろうとしていたことに「大反対」されたのです。

 私は発表のとき、「株式公開を目指すためにも、もっと店を増やして会社を大きくしたい。そのために、M&A(合併・買収)も考えている」というような、熱い話をしました。

 すると稲盛さんは、「今のままで成功は間違いない」とお墨付きをくれた一方で、M&Aについては「それだけは、やめたほうがいい」と、はっきり言われました。「文化が違うものを吸収していくと、必ず大変な問題が起きるから」と。

京セラはM&Aで規模を拡大したが
小さな会社が行えば本業がダメになる

 今思えば、不思議なアドバイスです。だって、稲盛さんご自身が創業した京セラは、M&Aを繰り返してあれだけ大きくなった会社ではないですか。

 でも、稲盛さんは、当時の私を見て、わかっていたのだと思います。まだ10店舗程度の、ようやく軌道に乗り始めたばかりの小さな会社が、背伸びしてM&Aなんかに手を出したら、経営のリソースがそっちに全部取られてしまって、本業がダメになる、と。

 私はその助言を素直に聞いて、M&Aという簡単な道ではなく、自力で一店舗ずつ着実に増やしていく道を選びました。稲盛さんがそう言ってくれなかったら、私はどこかで焦ってM&Aに手を出して、今頃、日高屋はなかったかもしれません。本当に感謝しています。

自ら保有する8億円の自社株式を
従業員1100人に無償で譲渡

 稲盛フィロソフィーの核心は「全従業員の物心両面の幸福の追求」です。これは、私が実践している「分かち合う資本主義」と非常に近い理念です。会社というのは、社長一人のものじゃないのです。そこで働いてくれる従業員みんなのものです。