実はそれを公約に新しい大統領が当選して、チェーンソー改革と呼ばれる大ナタを振るっている国があります。南米のアルゼンチンです。

 アルゼンチンは政府の財政赤字が原因で、長年、ハイパーインフレが続いていました。2023年に大統領にえらばれたハビエル・ミレイ氏は社会保障費を大胆にぶった切る改革で、政府支出を削減しました。

 結果として起きたことはふたつで、ひとつはアルゼンチンのハイパーインフレは終息します。もうひとつは高齢者を中心に生活が破綻する国民が続出したことです。

 日本で同じことをやろうとしたら、たとえば高齢者の医療費の自己負担を1割から5割に引き上げるとか、税金による年金の補填を止めて基礎年金を半額にするといった改革になるでしょう。

 日本の場合はそれは絶対にできません。若者よりも高齢者の人数が圧倒的に多いので、政治家は高齢者優遇政策しか採用しないからです。

 ということで、結局のところ日本の政治がやれる改革は、現役世代の負担を増やしながら、制度のいびつな部分を部分的に削っていくような改革に限られます。

 ではこの方針は日本にとってプラスなのでしょうか?それともマイナスなのでしょうか?

 おそらく政府は短期的なプラスに注目して、主婦年金の改悪に踏み切ろうとしているのだと思われます。

 今回議論されている方向に年金制度が改革されると、働く弱者は労働時間を増やさざるをえないのです。パート主婦は月100時間以上働くようになり、専業主婦は生活を助けるために仕事を始めなければいけません。

 もうひとつの弱者層である65歳から74歳までの前期高齢者も働く時間を増やすことになります。こうして年金だけでは食べていけない層が働き、結果として年金を納める側にまわります。

 これは政府にとって一石二鳥です。産業界で不足する労働力が出現するうえに、年金制度も維持しやすくなるのですから。ここが議論に参加している政治家や官僚の着眼点でしょう。

 では長期的なデメリットは何でしょうか?ふたつあります。

 ひとつはいずれ現役世代にこのたくらみがばれることです。国民は政府が思っているほどはバカではないので、こういう複雑に仕掛けたつもりの罠についても早い速度でSNSで真実が広まってしまいます。

 するともうひとつのデメリットが顕在化します。国民が分断するのです。

 10年後の未来では今以上に政党の数が乱立するでしょう。与党が安定過半数をとれるのは今が最後でしょう。そして近未来の日本の政治は欧州と同じで、複数政党が連立して不安定な政権を担う構造へと変貌します。社会では不満をかかえたふたつ、ないしは3、4つの層が、お互いをののしる姿が繰り広げられます。

 与党としては今回、いい着眼点を発見したというところでしょうけれども、おそらく将来から振り返れば、現役世代から搾取を増やしていく政策が、国家を滅ぼす種まきになっていたことに遅れて気づかされるのではないでしょうか。くらばらくわばら。

【著者の人気記事を読む】こりゃ三井住友の独り勝ちだわ…「PayPay連携」で三菱UFJとみずほを周回遅れにしたオリーブが日本人の財布を支配する未来