第二に、地域によって秋のクマのメニューが異なる。日本列島は南北に長いため、地域によって森に生育する木の種類は異なる。そのため、クマの秋の主食となるドングリの種類も異なり、それぞれの地域で大量出没の鍵となる食べ物も異なる(森林総合研究所2011)。

 第三に、樹種によってドングリの豊作と凶作のパターン(間隔)が異なり、ある種は豊作と凶作を1年おきに、ある種は3年に1回の頻度で豊作を迎える(Shibata et al. 2002)。

 ある種のドングリが凶作であっても、森には何種類ものドングリが存在するため、他の種類のドングリが実ればクマとしては森で食べ物を確保できる。つまり、何種類ものドングリの凶作が重なることで、森の中のクマの食べ物の量が極端に低下し、大量出没が誘発される。

 さらに、地域ごとに生育するドングリの種類の組み合わせが異なることで、凶作のゾロ目が出るタイミングも変わる。

ドングリの実り具合で
クマの出没は予測できる

 大量出没は全国一斉に起きているわけでもなく、年、地域によって状況は異なるので、それぞれの状況に応じた対応を考えることが大切である。その上で、地域による行政の情報収集体制および発信体制の違いが、実際の大量出没に伴う様々な被害の発生量の違いにも結びつく。

 事前にドングリの豊凶情報を発信することで、クマの出没を予測、警告し、住民の行動変容を促すことができれば、被害を未然に防げる可能性が高まる。そのため、大量出没年の被害に関する統計数値の増加には「実際の出没増」と「捕捉・通報体制の強化」が複合的に関与している可能性がある。

 つまり、クマの秋の大量出没およびそれに伴う被害の地域差は、生態と社会の複合システムによって生じていると考えられる。

 しかし、ドングリの凶作の影響だけでは、2025年の事態の本質は理解できない。そのためには、なぜクマの分布域が拡大し、人里近くまで進出するようになったのか、なぜ人に対する警戒心が低下したクマが現れるようになったのか、この問いに向き合う必要があり、その答えには、より長期的な視点が必要になる。